PTSDは早期発見・早期治療が大切
3月11日で東日本大震災から4年、3月20日は地下鉄サリン事件からちょうど20年になる。ともすると風化しがちな二つの大きな出来事は今も人々の心の中で癒されない傷跡としてうずき続けている。「オウム真理教犯罪被害者支援機構」が事件の被害者及び家族を対象にアンケートを実施したところ、回答者の3割にいまだ「目の異常」や「思い出して眠れない」などPTSDの症状が続いている可能性が高いことがわかったという。
PTSDとは、"Post Traumatic Stress Disorder"の略称で、日本語では「心的外傷後ストレス障害」と呼ばれる。戦争や災害、犯罪、事故など、自分では対処しきれない圧倒的な脅威にさらされ、心に大きな衝撃を受けたあとで、そのトラウマ(心的外傷)が元になって、さまざまなストレス障害が引き起こされるというものだ。
もともとはベトナム戦争の帰還兵に多くみられた精神的な障害を救済するために病名として認定されたもので、日本では1995年に起きた阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件などによって、広く知られるようになった。こうした精神的な障害は、災害や事故だけでなく幼児期の虐待や性犯罪被害、家庭内暴力などによっても引き起こされることがある。
主な症状としては、不安や不眠、トラウマの原因になったものや関連することに対するストレスや抵抗感、フラッシュバック(トラウマの記憶、映像、音などを追体験したり夢に見る)、感情のマヒ、無力感などがあり、またトラウマから自我を守るために、無意識のうちの記憶を封印してしまい、前後の記憶に障害があらわれることも。こうした症状が長期間継続している場合は、PTSDと診断されるが、数週間以内の場合は「急性ストレス障害」などと診断される場合もある。
4年前に起きた東日本大震災では、そのあまりの被害の大きさに、直接被災していない人でも、悲惨な映像などを繰り返し見ることでPTSDのような症状が現れる人が多く現れた。
他の病気と同じように「早期発見・早期治療」が大切
治療にかかる期間は、症状が重いほど長くなる傾向にある。気が付かないうちに悪化させてしまった場合も回復までに時間がかかるので、他の病気と同じように早期発見・早期治療が大切だ。脳に影響のあるアルコールや薬を乱用していたり、うつ病を併発している場合などは、慢性化してしまいやすいため、より注意が必要だという。
治療は、カウンセリングなどの心理療法などがメインとなり、睡眠障害や、うつ症状などを併発している場合には、こうした症状を軽減するための薬物療法も行う。
この際に行われる心理療法とは、心からトラウマ体験を追い出したり消したりするのではなく、その体験を受け入れ、肯定的な意味づけをできるようにしていくもので、「起きてしまったこと」としっかり向き合えるようになるまで継続する。大きな災害や事故の場合は、生き残った自分自身を許せなくなってしまうなど、過度な自責で苦しむ人も多いため、こうした考えを少しずつあらためていくためのカウンセリングも大切だ。
PTSDは、精神的に弱い人がなるものではない。トラウマとなるような体験をした人であれば、誰にでも起こる可能性がある。とくに、まだ自我が発達しきっていない子供の場合はPTSDを起こすような体験をしても症状に出にくいため、きめ細かい対応が必要だ。怖かった体験を口に出して話せる場を積極的に作ったり、家庭や学校でもしっかり子供の様子を見守るなど、PTSDのサインを見逃さないような周囲の大人によるサポートが必須なのである
(文=編集部)