あの大参事から20年shutterstock.com
13人が死亡し、およそ6300人が被害を受けた「地下鉄サリン事件」は3月20日で20年を迎える。
「オウム真理教犯罪被害者支援機構」は2月24日、地下鉄サリン事件の被害者を対象にしたアンケートの結果を発表。回答をした被害者299人のうち3割で心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を訴え、さらに多くが目の症状を中心に異常があるとしている。アンケートは昨秋、被害者ら計953人に回答用紙を送り、30代以上の被害者299人と家族など18人の計317人が回答した。テロの傷跡は今も多くの人々を苦しめている。
この国はあの痛ましい事件から何を学び取ったのか?
「警察、消防、行政などは非常事態に対して対応強化がなされてきた。しかし、医療対応は置き去りにされたままだ」と指摘するのは奥村徹・警視庁警務部参事。内閣官房副長官補付(安全保障・危機管理担当)NBC災害対策専門官などを歴任している。いわばわが国にNBC災害やテロ対策の専門家だ。NBC災害とは核(nuclear)、生物(biological)、化学物質(chemical)による特殊災害のこと。地下鉄サリン事件は化学物質が使用された最悪のテロだ。
奥村氏は医療機関の対応の遅れをつぎの5つにまとめて説明する。
1、医療機関における適正な被災者受け入れ
地下鉄サリン事件では、自力で医療機関を目指す人、重症患者も善意の第三者などの搬送され始めることが明らかになった。しかし、現在各地の医療機関で実施されている訓練では、自力でたどり着いた患者、善意の車両で搬送された患者、救急車両で搬送された患者、事件とはまったく関係ない一般の患者のそれぞれの導線がしっかりと確保されていない。
さらに除染より救命が優先されるケースが少なくないにもかかわらず、除染が行われているという前提で訓練が組まれている。自力来院者が軽症だという先入観もある。重傷者、中等症が混在しているという設定も無い。
医療従事者にとって都合のいい訓練が行われていないか? 既に20年がたっている。そろそろ高度な受け入れ態勢の確立、訓練がなされなければならない。
2、医療機関における個人防護衣の着脱スキル
防護衣自体は次第に整備充実してきている。しかし、医療関係者の着脱のスキルは低すぎる。どこかに自分たちは上手くできるという幻想を持っていないか。警察や消防での着脱訓練の頻度とあまりにも違いすぎる。年に1度程度では事態に対応できず、自分の命を守ることが出来ない。
3、現場における医療行為
具体的にはウォームゾーン(準危険区域)での医療行為となるが、レベルCの防護衣を着てどれだけの医療行為ができるかである。少なくても気道、呼吸の確保、痙攣管理、解毒剤の投与ぐらいは最低限必要となる。現行法では医師、看護師だけが行うことができるが、除染前医療をどうするのか? 重症患者に対して除染前の30分、その後の準備に30分かかるのではまったく治療が間に合わない。医師のメディカルコントロール下で緊急事態に対応する救急救命士などパラメディカルの参加を検討すべきだ。
4、他の関係機関との連携強化の必要性
10年以上も前に「NBCテロ対処現地関係機関連携 現地関係機関連携モデル」で、連携の中核的機能を果たすべき「現地調整所」が設置されることとなった。現地調整所は、化学テロ等の発生時、初動措置などに従事する現地関係機関(警察、消防、自衛隊、自治体職員、医療従事者など)の円滑な連携を調整する場だ。しかし、各地の訓練では、この現地調整所が浸透していない。しかもこの調整所で共有すべき情報の中味が確立されていない。特に地域から情報を吸い上げ、地域に危険、安全情報を伝えるべき市町村の担当者の役割が自覚されていない。