連載第4回 頭痛の秘密がここまで解き明かされてきた

あなたの頭痛、頭痛薬の飲みすぎで引き起こされる「薬物乱用頭痛」では?

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頭痛薬の飲みすぎで頭痛!?shutterstock.com

 頭痛の診療をしていると「薬物乱用頭痛(Medication-Overuse headache:MOH)」の患者さんを診察することがあります。ここでいう薬物乱用とは、薬剤の使用過多による頭痛の意味で、決して違法な薬物を使用しているという意味ではありません。しかし「違法な薬物を連想させる」との患者さんからの訴えがあり、2014年発刊の国際頭痛分類第3版β(ICHD3-β)の日本語版では、この点を配慮して「薬剤の使用過多による頭痛」(薬物乱用頭痛)という表記に変更になりました。今回は、この「薬剤の使用過多による頭痛」について述べてみたいと思います。

「毎日鎮痛薬を飲んでいるのに頭痛がおさまらない。そこでさらにまた鎮痛薬を内服し胃が荒れてしまう」、「頭痛がしょっちゅう起こるので毎日頭痛薬を飲んでいる」「頭痛薬を飲んでもあまり効かないので、すぐにまた飲んでしまう」などという経験をしたことのある方は意外と多いのではないでしょうか。このような方は、「薬剤の使用過多による頭痛」の可能性があります。

「薬剤の使用過多による頭痛」(薬物乱用頭痛)とは、英語を直訳すると「過剰に内服薬を使用した場合に起こる頭痛」と考えることができます。薬局で買える鎮痛薬、医療機関から処方される鎮痛薬(ロキソニン®など)、トリプタン(注1)やエルゴタミン製剤(注2)などの急性期頭痛治療薬を頻回に使用することで起こると考えられています。

 その診断の基準は、以前からの頭痛疾患をもつ患者さんにおいて、
①頭痛が1カ月に15日以上存在する。
②1種類以上の急性期の対症的頭痛治療薬を3カ月以上定期的に乱用している。
③他の頭痛を起こす病気がない。
とされています。
 
上記の診断基準に該当する方はいないでしょうか? 特に薬局で買える鎮痛薬を1日に何度も使用する頭痛持ちの方は要注意です。ひょっとすると薬局から買って内服していることが原因で頭痛を起こしている可能性があります。痛みが来たらどうしようと不安になり、ついつい頭痛薬を頻繁に飲んでしまうことで更なる頭痛を引き起こしてしまうのです。また医師から処方された薬でも起こる可能性があるため、トリプタンなどの頓挫薬(とんざやく)を十分に効果のある時間やタイミングに内服する必要があります。

基本的な治療は原因薬の服用中止

「薬剤の使用過多による頭痛」を引き起こしやすいのは、片頭痛や緊張型頭痛の患者さんです。症状としては早朝や明け方に頭痛が起きることが多い、頭痛の回数が増え、連日頭が重くすっきりしないなどの特徴があります。ひどくなると集中力の低下や物忘れ、イライラや興奮状態などの精神症状などに結びつくこともあります。

「薬剤の使用過多による頭痛」の基本的な治療は、原因薬剤である頭痛薬の内服中止が原則です。しかし、原因薬物の中止後に、その反動で激しい頭痛(反跳頭痛)や吐き気、嘔吐などがおきることがあるので、患者個々の状況や背景に応じて予防薬を考慮しながら中止をしていく場合が多いです。医師から処方されている薬剤であっても、漫然と内服している場合や、内服するタイミングを間違っている場合などがあります。ぜひこのような方は、近隣にある頭痛専門医の受診をおすすめします。

ただし、原因薬剤を中止し、発作の回数が減っても、薬を飲まないと不安になるなどの理由で、元のように薬を飲みすぎてしまい、気がつくと再発するケースが比較的多いので、患者さんの薬物乱用頭痛に対する正しい理解と対処法が重要となってきます。

注1)トリプタンとは、急性期の片頭痛治療薬で,現在日本では、内服薬で4種類(イミグラン®、マクサルト®、ゾーミック®、アマージ®)、点鼻薬としてイミグラン点鼻薬®が発売されています。
注2)エルゴタミン製剤は、現在、カフェインを含む製剤のクリアミン®のみ使用可能です。

連載「頭痛の秘密がここまで解き明かされてきた」バックナンバー

西郷和真(さいごう・かずまさ)

近畿大学理工学部生命科学科ゲノム情報神経学准教授、近畿大学医学部附属病院神経内科。1992年、近畿大学医学部卒業。近畿大学附属病院、国立呉病院(現国立呉医療センター)、国立精神神経センター神経研究所、米国ユタ大学博士研究員(臨床遺伝学を研究)、ハワードヒューズ医学財団リサーチアソシエイトなどを経て、2003年より近畿大学神経内科学講師および大学院総合理工学研究科講師(兼任)。2015年より現職。東日本大震災後には、東北大学地域支援部門・非常勤講師として公立南三陸診療所での震災支援勤務も経験、2014年より現職。日本認知症学会(専門医、指導医)、日本人類遺伝学会(臨床遺伝専門医、指導医)、日本神経学会(神経内科専門医、指導医)、日本頭痛学会(頭痛専門医、指導医、評議員)、日本抗加齢学会(抗加齢専門医)など幅広く活躍する。

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