連載第11回 薬は飲まないにこしたことはない

薬も医者も風邪は治せない! 季節の変わり目、風邪薬の意外な副作用とは?

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風を治すには薬よりも休養 shutterstock

 咳、喉の痛み、鼻水、発熱......。誰もが経験したことがある風邪のつらい症状。そんなとき、日本人の多くは「仕事に支障をきたすから薬を飲もう」「家事ができないと困るから病院に行こう」と考える。

 だが、こうした「風邪薬は風邪を退治してくれる」「医者が風邪を治してくれる」という認識に待ったをかけたい!

 病気の症状を緩和する薬はあっても、病気を根本的に治す薬はほとんどないことは、この連載で何度も述べた通りだ。風邪薬は、咳や鼻水を止める、解熱するなど、表面に出る症状を軽くするだけの対症療法であり、根本原因を取り除くものではない。また、薬で病気が治らないのであれば、薬を処方する医師が病気を治すとも言いきれないだろう。

 ところで、風邪薬のコマーシャルでは、熱、鼻水、喉の痛みなどの症状を、まるで憎い敵か悪魔のように扱っているものが多い。たしかに、体がつらいと仕事や家事、勉強が滞ってしまい、薬が救世主のように思えることもある。だが、そもそも風邪をひくと、なぜ咳や鼻水、熱、喉の痛みなどの症状が出るのだろうか? 

 それは、体自体が風邪のウイルスと戦うために、免疫反応が活発になるからだ。症状はウイルスを排除するための生体防御反応なのである。従って、本当の敵は風邪の症状ではなく、ウイルスだ。ウイルスと戦う体を助けるために私たちができることは、安易に薬を飲んで、この生体防御反応を抑えてしまうことではない。大切なのは、体のエネルギーをなるべく使わないようにゆっくり休むことである。

 ただ、あまりにもつらく、さらに仕事や家事をしなくてはならない状況であれば、薬の服用もやむを得ないだろう。咳や鼻水が止まらず余計なエネルギーを使ってしまうのなら、薬で症状を軽減し、体力を温存することも一案である。しかし、やはり体の健康を第一に考えれば、薬は最後の手段になる。風邪を治すのは薬でも医者でもない。本当の敵と戦うのは、自分の体だということを忘れないでほしい。

風邪薬を飲んだせいで熱中症に

 温度も湿度も高く、過ごしにくい日本の夏。毎年、熱中症で病院に搬送される人が後を絶たない。この熱中症の原因は、高温多湿や水分・塩分の不足といわれているが、それだけではない。実は風邪薬、とくに鼻水止めの薬に熱中症の原因が潜んでいるのだ。実際に熱中症で病院に来た人に話を聞くと、風邪薬を飲んでいたという人が少なくない。

 鼻水止めには抗コリン薬という成分が配合されており、鼻水だけでなく、汗を止める役割もある。つまり、体内の水分の発生を抑える作用があるのだ。しかし、発汗することができないと体内に熱がこもるため、熱中症になる危険性も高くなってしまう。また、熱中症予防のためには水分や塩分を補給することが大切だが、汗をかくことができないとそうした対策をとっても体温調節が難しくなる。なお、抗コリン薬は、酔い止め、咳止め、胃薬などにも多く含まれている。

 このように、風邪薬と熱中症の間には意外な相関関係がある。風邪薬が必ずしも熱中症を引き起こすわけではないが、体調や温度・湿度によっては、そうした副作用リスクがあることも知っておく必要があるだろう。


連載「薬は飲まないにこしたことはない」バックナンバー

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士(米AHCN大学)、ボディトレーナー、一般社団法人国際感食協会代表理事、ハッピー☆ウォーク主宰、NPO法人統合医学健康増進会常務理事。1959年、千葉県生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師として医療の現場に身を置く中で、薬漬けの医療に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を活かし、薬に頼らない健康法を多方面に渡り発信している。その他、講演、セミナー、雑誌等での執筆も行っている。最新刊『薬を使わない薬剤師の「やめる」健康法』(光文社新書)が好評発売中。

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