腰痛を引き起こす原因はあまりも膨大shutterstock.com
腰痛の人は日本全国で推定2800万人いると言われている。特に中高年に多く、40〜60歳代の約4割が腰痛に悩んでいる。腰痛を感じて病院に行き、すぐに治っていれば、こんなに腰痛持ちが多くなるわけがない。つまり、病院で解決できていない腰痛が多いということだ。そして腰痛は、解決できない以前に、85%は原因すら特定できない「非特異的腰痛」、診断名で言えば「腰痛症」なのである。
85%もの腰痛が「原因不明」で「異常なし」である理由
たとえば、ぎっくり腰で這うようにして病院に行き、レントゲンを撮り、さらにMRI検査まで行ったのに「どこも異常はありません」と診断されることがある。「まともに立って歩くこともできないのに、異常がない!? そんな馬鹿な!」と思うが、これは実によくある話だ。
医師の「異常なし」と患者の「異常なし」には乖離がある。この場合、医師の「異常なし」は決して「どこも悪いところはない」という意味ではない。医師が考える一刻を争う重篤な病気や、レントゲンなどに映る骨の異常などはないというだけに過ぎない。
患者は医師に「黙って座ればピタリと(悪いところを)当てる」ことを期待する。少なくともレントゲンやMRIなどを撮れば、どこが痛みの原因なのか、見つけられるはずだと考える。最適な治療法は必ず1つしかないはずだと思っている。
しかし、それは患者の幻想だ。医師は最初に鑑別診断を行う。患者が一番に訴える症状を聞いて、その症状から考えうる疾患リストを頭の中に思い浮かべる。腰痛の原因となる疾患は実にいろいろある。尿路結石やすい臓炎などの内臓の病気、腹部大動脈瘤など血管の病気、化膿性脊椎炎や結核性脊椎炎などの背骨の病気、そして、もちろん椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの整形外科的疾患まで、そのリストは膨大だ。
腰痛を引き起こす疾患リストの中のいずれなのかを絞り込んでいくことになるのだが、医師はそこで除外診断を行う。除外診断とは、がんなどの一刻を争う病気や手当をしないと危険な骨折など、より重篤で治療を急ぐ病気の可能性をひとつひとつ確かめて除外していく診断だ。この除外診断のために、レントゲンなどを撮るのだ。
そして、一通り考えられる重篤な疾患の可能性を排除できたとき、医師はほっとした思いと共に「異常はありません」と言う。しかし患者は、痛いのに「異常がない」はずがないと思うから、医師に不信感を抱くし、医者は役に立たないと感じる。処方された鎮痛剤をごまかしだとすら思ってしまう。
痛いのに「異常がない」状態とは、いったいどんな状態なのか? たとえば、ぎっくり腰はおおむね「腰の捻挫」である。捻挫とは、関節に無理な力がかかって可動範囲を超える動きをしたことにより、骨と骨がずれはしなかったものの、関節の周囲の靭帯が伸びるなどして内出血や炎症を起こした状態。骨に異常はないし、靭帯が切れたわけでもないので、レントゲンには異常が映らない。従って、医師は原因をおおよそ推測はしているが、どこの部分がどう損傷しているかはっきりとは特定できない。この場合、このぎっくり腰は、腰痛の85%である原因が特定できない「非特異的腰痛」と診断される。
しかし、捻挫はしばらくすれば、おおむね自然に治る。痛みが3か月以内に治まれば急性腰痛。ところが3カ月過ぎても痛い、それどころか何年も痛いことがしばしばある。非特異的腰痛の慢性腰痛だ。