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がんの三大療法(手術・放射線治療・化学療法)に行き詰まり、「残された日々を有意義に過ごしてください」と言われたら――。
「最後まで諦めずに治療を続けたい」。東京大学病院の放射線科の調査によると、末期がん患者の約8割は最後まで治療を望むという。しかし、「最後まで治療を提供したい」と考えている医師は約2割。この6割のギャップは、治療を希望しても適切な治療がないという悲惨な 状況を表している
いつもがん患者は再発・転移の恐怖に苛まれている
「市民のためのがん治療の会」代表である會田昭一郎さんは、自身のがん治療体験を基にして、2004年に同会を設立した。患者一人ひとりの最適な治療の選択をサポートするため、セカンドオピニオンの斡旋相談や、がん治療に関する普及啓発活動、医療環境整備の政策提言などを行っている。
だが、會田さんは約10年間の活動を通じて現在の医療の限界も痛感。何とか第4の治療法はないかと模索した結果、がんの免疫療法の一種、ペプチドワクチン療法に注目した。
「色々な考え方はあるが、多くの患者や家族は『何とか生きたい』『生かしてあげたい』と願っている。いくら優れた医師の情報を提供しても、現代医学には限界があり、これまで多くの方に対して、やりきれない思いで"残された日々を有意義に"というセカンドオピニオンを返してきた」
「そして、がん患者は、私のような完治したといわれる者でも、再発、転移の恐怖に苛まれている。会員の中からも『再発しても頼れる治療法に関する情報を提供すべきではないか』という声が上がり、ペプチドワクチン療法に辿り着いたのです」
標準治療に行き詰まった患者のためにペプチドワクチン療法を支援
會田さんは2012年、標準治療に行き詰まった患者のために、「一般社団法人 市民のためのがんペプチドワクチンの会」を設立。ペプチドワクチン療法の啓蒙活動・情報発信、研究支援のための寄付活動などをスタートした。
「2009年に『第一回先進医療フォーラム』(主催:特定非営利活動法人先進医療フォーラム)で東京大学医科学研究所の中村祐輔教授(当時)の記念講演「ヒトゲノム解析に基づいた新しい癌ペプチドワクチンの開発」を聞いたのがきっかけ。他の免疫療法とは一線を画す、最も"第4のがん治療法"に近いものだと思い、この治療法が誰にでも行えるようにしたいと考え、活動を始めました」
ペプチドワクチン療法は、がんに対する特異的な免疫力を高めてがんを攻撃する治療法だ。がん細胞の表面にはがん特有のペプチド(特定のアミノ酸化合物)が目印として現れる。このペプチドを人工的に合成して体内に投与することで、ペプチドを目印に攻撃する「キラーT細胞(CTL)」ががん細胞のみを攻撃。患者自身の免疫力を高めるため、副作用が少なく、第4の治療法として確立されることが期待されている。
「3大療法では治療できない患者や、体の負担をできるだけ少なくして治療を受けたい患者にとって、がんペプチドワクチン療法はすぐにでも受けたい希望の治療法。しかし、国がその効果や安全性を認めていない未承認薬とのため、どこでも自由に治療を受けることができない。効果と安全性について国の厳重なチェックを受けた後、製薬会社が薬として売り出すのを待たねばならない」と、會田さんはそのもどかしさを訴える。
通常は「臨床研究」での成果を見て、さらに大規模な「治験」というテストに入る。この結果を国が「効果もあり安全だ」と認めれば製剤化へと進展する。
「治験には多額の費用がかかることや、本格的な治験のできる研究機関は少ない。未承認薬でも唯一治療を受けるには、臨床研究や治験に参加することです。しかし、これらは極めて限られた条件に合った患者だけを集めてデータを収集するためのもの。さらに、予算の関係で僅かな人しか受けられないのが日本の実情です」