連載第8回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

高齢者虐待事件の男性加害者の割合は59.9%!なぜ男性介護者の虐待が多いのか?

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被虐対高齢者からみた虐待者の続柄 出典:厚生労働省「平成24年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」

 独身の娘や息子が、親の介護に明け暮れるうちに、八方ふさがりになってしまう現実がある。なかには婚期を逃した、離職したなど、自分自身の幸せ、生きがいを放棄せざるを得ない介護者もいる。

 以前、筆者が出演の機会をいただいた報道番組(NHK「特報首都圏『シングル介護』」2008年10月10日放送)のDVDを見直してみると、寝たきりの父親が、自分の介護に専念して職を失った息子の将来を悲観する場面がある。「自分の犠牲になってどうしたものか......」。

 シングル介護が問題ということではない。そのことによって発生する問題があまりにも大きく、犠牲が大きすぎるということこそ問われなければならない。ただ単に孝行息子・娘の話にさせてはいけないのだ。同じ時代を生きる者として、あの息子を思う父親の悲嘆に応えなければならないのだ。悲惨な事件が起こる前に......。

罪悪感でいっぱいの男性介護者からの電話

 

 親のために自分の人生を棒に振ったという思い、そして日々の介護で追いつめられ、ついに暴力に走ってしまったという介護者もいる。

 厚生労働省の調査によると、養護者による虐待件数は1万5202件(平成24年度)。被虐待高齢者から見た続柄は、息子41.6%、夫18.3%、娘16.1%と続く。息子と夫を合わせて約6割を占めている。

 筆者が研究室にこもって作業をしていたある夜、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の電話が鳴った。受話器を取ると、福岡県北九州市の男性からだった。

「さっき母親に手を上げてしまった。まただ......。これじゃダメだと思って、切羽詰まって、思いあまってここに電話をした。罪悪感でいっぱいだ」

 新聞に掲載された「男性介護ネット九州ブロックの集い」の記事にあった電話番号を頼りに電話したのだという。記事が掲載されてから、ひと月あまりが経っており、大事に切り抜いてとっておいたと見える。

 電話の男性は、認知症を患う87歳の母親と二人暮らしの60歳。父親は入所先の特養ホームですでに亡くなっており、母の認知症は進行し、息子のことを弟と思っている。夜の排泄の失敗もある。介護保険サービスは利用していないと言う。母親が保険料を滞納していて利用料が大きいから、とても負担できないそうだ。30分ほど話し、福岡の社会福祉士Kさんに連絡するよう勧め、Kさんにもこの話を伝えた。

 このように男性が介護虐待や不幸な事件の加害者となるケースも多いが、この状況を改善するにはどうしたらいいのか。私は「社会」「企業」「自分」の三つに備えをつくることを提起したことがある(『週刊朝日』2014年3月14日号)。
 
 介護保険をもっと介護をする家族に目を向けた制度につくり変えること。介護者の会などケア友探しができる身近な場づくりも「社会の備え」の一つになる。「企業の備え」は介護して働く社員への支援と職場理解の醸成だ。休業制度の拡充や相談部門の設置、社員調査の実施等々、やるべき課題は山ほどある。「自分にも介護の備え」が欲しい。

 誰もが介護者になる時代だからこそ、「一般教養」として介護を理解し身につける。介護を特集した雑誌で知識を蓄えるのも、家事スキルを身につけるのもいい。いざという時、慌てずに「介護SOS」を発信できる人になることも大事だ。もう待ったなしだ。


連載「いつかは自分も......他人事ではない"男の介護"」バックナンバー

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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