連載第5回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

これ以上、悲劇を繰り返させたくない! 家族による介護殺人

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 現在、代わってくれる人のいないメインの介護者の3分の1は男性だ。ある日突然、家族が倒れ、今日から否応なく介護が始まるということは、決して珍しい例ではない。はじめての介護は何から手を付けたらいいのかわからない上、炊事や洗濯、買い物、ゴミ出しなど慣れない家事がのしかかる。さらに、仕事との両立は非常に難題だろう。さまざまな問題を抱える男性介護で、これまで何度か辛い事件が起こってきた。

 2006年、86歳の認知症の母親を介護していた54歳の息子が、介護疲れによって母親を手にかけてしまった。休職しながら介護を続けてきたものの、失職。経済的に困窮したが、失業給付金などを理由に生活保護は認められなかった。介護と両立できる仕事はなかなか見つからず、そのうち失業給付金も終了してしまった。アパートの家賃や母親のデイケアの料金も払えなくなり、心中を決意したという。「最後の親孝行」のつもりで母を車椅子に乗せて京都を観光し、桂川河川敷で犯行に及んだ。

「もう生きられへん。ここで終わりやで」「そうか、あかんか」「すまんな」「一緒やで○○。○○はわしの子や」という会話が交わされた後、母親の首を絞めて殺害。自分も包丁で首を切り自殺を図ったものの、死に切れなかった。この会話に、京都地裁が泣いたという。

介護者の疲弊は改善されたのか?

 

 10年あまり一人で介護に明け暮れ、職も失い生活保護の窓口では門前払いされ、追いつめられての犯行だった。判決は懲役2年6カ月、執行猶予は3年ついた。裁判長は、介護をめぐる心中事件が全国で相次いでいることにふれ、「日本の生活保護行政のあり方が問われている」と異例の説諭を述べた。

 京都の事件から8年が経過したが、いまもなお同様の不幸な事件は減るどころか全国各地で起きている。

 少し古い資料だが中日新聞(2009年11月20日付朝刊)は「制度10年やまぬ悲劇 介護心中400件」との見出しで、介護保険導入の2000年には32件だったのが、2006年以降は年間50件以上に増えたと報じた。加害者の75%が被害者の夫や息子で、介護を一人で背負い込み行き詰まるケースが多いという。中国新聞(2011年6月4日付朝刊)も、2000年以降、中国地方で介護殺人心中事件が少なくとも22件あったと報じ、加害者の約7割が男性であり、介護の苦悩を一人で抱え込み孤立しやすい男性介護者の実態が浮かび上がったと書いた。

『介護殺人』(クレス出版)という著書のある湯原悦子さんは、「2000 年の介護保険の導入後も必ずしも事件が減ったとは言えないこと」「老老介護の事件も多く、加害者自身も60 歳以上の事件は2010 年には77.8%という高い数値を示した。また、 2009 年には被害者が90 歳以上の事件が8件も生じており、在宅介護の長期化による介護者の疲弊が伺える」と指摘している(湯原悦子「介護殺人の現状から見出せる介護者支援の課題」)。

 不幸な介護事件の背景に、家族介護を当然視し、男性の介護を想定しないような介護制度、働き方や暮らしを前提とする介護システムがあるとすれば課題は大きい。家族に介護を要因とする加害者も被害者も誰一人生まない社会設計は急務だ。


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津止正敏(つどめ まさとし)
立命館大学産業社会学部教授。1953年鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。
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