羽生結弦選手はあれだけの怪我をしながら、7週間の間に4つの大会というハードな試合スケジュールをこなしてきたのだから、疲れがたまらないわけがない。あの事故の際、炎症を起こしやすい尿膜管に響く打ち身があり、頭部や顎、大腿部などの傷を癒すだけの十分な休みも取れずにいたのだから、炎症を起こしても当然。間接的に、あのときの怪我が今回の緊急入院と手術に結び付いたと考えられる。
「尿膜管遺残症」の手術方法と経過は?
「尿膜管遺残症」では必ずしも手術をするわけではない。一般には抗菌薬等で炎症治療をすることが多い。炎症がひどく、膿がたまると、皮膚を切開して、膿を排出する場合もある。症状が何度も繰り返される場合などには、根治療法として尿膜管摘出術が検討される。
尿膜管摘出を開腹手術で行う場合はおへその下から10cmほど切り開く。大きな傷跡が残り、1週間程度は歩くのも困難な痛みに悩まされることもある。
内視鏡を使って行う、腹腔鏡下尿膜管摘出術なら、傷口を小さくとどめられ、快復も比較的早い。おへその横とその下2か所ていど、計3~4箇所に、1cmほどの小さな穴をあけて、そこから手術器具を挿入して行う。腹腔鏡下尿膜管摘出術は2014年4月に保険適応になったばかりだ。
日本スケート連盟の発表では、どのような手術を行ったのかは説明がない。ただ2週間の入院治療と、1カ月の安静加療が必要とのこと。
入院期間等の長さから、膿を排出するだけの手術とは考えづらい。尿膜管摘出術を行ったと考えられる。ただ疑問もある。羽生結弦は27日に腹痛を訴えていたので、炎症を起こしていたと考えられる。通常、炎症を起こしている状態では、尿膜管摘出術は行わない。抗菌薬等で炎症を抑えてから手術する。
報道によれば、バルセロナでのグランプリファイナルでも痛みがあり、帰国後、医師に相談した結果、精密検査を受けることを勧められていたという。既に抗菌薬をのむなどの治療は行われていて、それでも試合で激しい動きをすることにより、抑えきれない痛みが出ていたものの、30日には手術できるていどまで炎症がおさまった可能性がある。
尿膜管は必ずしも摘出する必要はない。しかし羽生結弦選手の場合、尿膜管を残したままにしておくと、今後、また大事な試合の際に炎症を起こして、演技の妨げとなることが考えられる。今後の憂いとならないよう、摘出することを選び、手術を決断したのではないだろうか。
尿膜管の位置や大きさ、形などにより、腹腔鏡下摘出術が難しく、開腹手術を行う場合もあるが、そうでなければ、羽生結弦選手の場合、快復が早い腹腔鏡下摘出術を選んだだろう。
通常の勤め人などなら、腹腔鏡下摘出術で1か月半までは休む必要はない。そこで開腹手術の可能性も浮かぶ。しかし、休養が明ければ、激しい運動をするトップクラスの選手だから、練習に戻れるていどまでの回復を考えた安静加療期間と考えると、腹腔鏡下摘出術でもこの期間で不思議はない。また羽生結弦選手は喘息の持病があるため、手術の麻酔によるダメージも通常より大きいことも考えられる。
羽生結弦選手の次の試合は、2015年3月23日から29日まで中国で開催される世界選手権。連覇がかかっているだけにあせりそうだが、羽生結弦選手はまだ若い。今年だけを見てあせらず、きちんと休んでほしいと思う。
(文=編集部)