あの男子フィギュアスケートの羽生結弦選手が2014年暮れも押し詰まった12月30日、緊急入院し、手術をした。一体、彼に何が起こったのか?
振り返れば11月8日、中国上海で行われた2014-2015シーズンのグランプリシリーズ第3戦男子フリーの直前練習で、中国の選手と激突し、頭部や下顎から流血、足をねんざするなどの大怪我を負った。直後に頭や顔にテーピングと包帯をした痛々しい姿で出場、何回も転びながら、銀メダルを取り、感動の声も上がる一方、体調を心配する声も上がった。
11月28日から30日にかけて開催されたNHK杯は直前まで出場できるかどうか危ぶまれたが、なんとか出場、総合順位4位。ランキング6位と最下位ながら、かろうじてグランプリファイナルへと進出した。
日本時間12月12日から14日までバルセロナで開催されたグランプリファイナル大会では自己ベストを更新、日本男子初となる大会2連覇を達成。
さらに12月26日から28日まで長野で開催された 全日本選手権で優勝し、見事に大会3連覇を達成した。
しかし27日のフリー演技後、これまでにないほど息を切らし、汗をしたたらせていた羽生結弦選手は、インタビューでも体調の悪さを話していた。実はグランプリファイナルのときから腹痛を繰り返していて、全日本選手権の間も吐き気を催す時もあるほどの体調だった。29日のエキシビションは欠場して、28日、29日に複数の医師に診察を受け、30日に緊急手術を行っていた。その病名は「尿膜管遺残症(にょうまくかんいざんしょう)」。
羽生結弦選手を襲った「尿膜管遺残症」とは?
「尿膜管遺残症」は決して深刻な病気ではない。
尿膜管とは赤ちゃんがお母さんのおなかにいるときに活躍していた、膀胱とへそをつなぐ管。赤ちゃんはお母さんの胎盤とへその緒でつながっていて、このへその緒を通じて、お母さんから酸素や栄養を受けとり、二酸化炭素や老廃物を排出する。生まれた後は膀胱から尿道を通じて排尿するが、お母さんのおなかにいる間は、膀胱からへそにつながる尿膜管から、おかあさんに尿を送って処理してもらっている。
尿膜管は生まれた後は不要で、「正中臍じん帯」と呼ばれる線維組織に変化する。ところがまれにこの尿膜管が管としてあるいはスペースとして残ってしまうことがある。その確率は100人につき1人か2人。それでも特に症状が出ないことも多い。
しかし、この余分なスペースが感染症を起こしておへそから膿が出たり、おへそから尿が漏れ出たり、悪性腫瘍ができたり、発熱や腹痛を起こすことがある。感染症が悪化すると腹膜炎を起こす場合もある。羽生結弦選手の場合も感染症が起こりやすい状態で、しばしば腹痛を引き起こしていたと思われる。
ここで気になるのが、中国でのグランプリシリーズ第3戦の練習での怪我と、今回の不調との関係である。
あの事故後の発表によれば、羽生結弦選手の怪我は頭部挫創、下顎挫創、腹部挫傷、左大腿挫傷、右足関節捻挫。「腹部挫傷」、つまり腹部に怪我をしている。「挫傷」とは外部の強い打撃でできる傷で、皮膚が破れない状態を指す。鈍器で打撃や圧迫され、体内の組織や臓器が損傷した状態をいう。ちなみに「頭部挫創」や「下顎挫創」の「挫創」は、皮膚が破れて傷口が開いた状態を指す。
中国での事故の際の腹部挫傷が、今回の緊急入院や手術をもたらしたのか? 医学的に考えると、直接的には関係ない。ただ同じ風邪の菌にさらされても、元気ならひかなくて済む風邪を、体調不良の場合にはひいてしまう。尿膜管が炎症を起こすかどうかは体調次第。