偏見多い「てんかん」...病名変更を検討もイバラの道

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 てんかんの専門医の団体・日本てんかん学会が、「てんかん」の病名変更の是非について検討を進めている。医療現場では近年、「精神分裂病」が「統合失調症」に、また糖尿病、高血圧症などの中高年に多い慢性疾患を示す総称を「成人病」から「生活習慣病」へと変更するなど、同じような動きが相次いでいる。このような動きは概ね旧来の病名に基づく誤解などを解消することが目的だが、今回のてんかんに関する病名変更の検討は置かれている事情が少々と異なる。なぜ今、てんかんの病名変更が必要なのか―。
 
 まず、てんかんという病気がどんなものか触れておきたい。てんかんは精神疾患と称される「心の病」ではない。体内の神経の機能などが異常をきたす「神経疾患」である。人間は大脳からの指令が電気的信号として神経を通して全身に伝えられるが、この電気的信号が過剰で興奮状態となり、発作が起きるのがてんかんだ。この発作も体が固まったように一瞬動きが止まる、意識を失って倒れるなど様々な形態があり一言では表現できない。ただ、現在では治療薬や外科手術の進歩により、適切な治療を受けている患者では半数以上が発作とほぼ無縁の生活を送ることができる。

 しかし、一般的にてんかんというと「急にけいれんを起こして白目をむいて倒れる」という単純化されたイメージを持つ人が多く、この一面的な捉え方に起因する患者への偏見・差別が根強くある実態は以前からも指摘されてきた。
さらに、「てんかん」は、そもそもは漢字で「癲癇」と表記していたものを簡略化してひらがな表示にしているが、漢字の「癲」は気が狂う、「癇」は興奮を意味し、単純に文字上の意味は、気が狂って興奮するということ。加えて、たとえひらがなでも「てんかん」という響きは一般人になじみの薄く、それから奇異な連想を持たれる可能性もあるため、病名を変えるべきではないかという声は患者の中で少なくなかった。

 日本てんかん学会では、過去に会員医師向けに病名変更に関するアンケートを行っているが、その際は「病名を変更しただけではてんかんに関する偏見はなくならない」などの理由で、回答した会員の半数以上が病名変更には否定的だった。
 
 ところがここ最近、てんかん患者が新たな逆風にさらされている。その原因が2011年4月に栃木県鹿沼市でてんかん患者がクレーン車を運転中に発作をおこして児童6人が死傷した事件や、2012年4月の京都市祇園地区で運転中のてんかん患者が暴走して本人を含む8人が死亡した事故だ。

 運転免許については、取得資格を満たしていない欠格事由としていくつかの疾患の患者が指定されており、てんかん患者についても該当している。ただ、運転免許を絶対取れないというのではなく、てんかんであることを申告し、一定期間発作が起きていない旨の医師の診断書がある場合などは取得できる。ところが鹿沼市や京都市の例では、運転手が自らてんかんであることを知りながら、未申告で免許の取得・更新をしていた事例だったのだ。
 

病名変更は本当は誰のために何のために

 これを契機に、欠格事由を未申告のまま運転免許を取得・更新した際の罰則を定めた改正道路交通法や、運転に支障のある病気が原因で死傷事故を起こした場合の厳罰化を定めた自動車運転死傷行為処罰法が新設された。
 
 この一連の動きはてんかんに関する社会的関心を高める一方で、患者に関する偏見が助長されているのではとの懸念が患者を中心に広まっている。こうしたこともあって、今回の日本てんかん学会による病名変更の是非を検討する動きにつながっている。

 だが、その道のりは平坦ではない。そもそも病名変更では日本てんかん学会のみならず、医学界全体、さらには行政も巻き込んだ大掛かりな取り組みになるからだ。同学会でも今後2~3年ほどの期間をかけて関係学会や行政、患者団体などから意見聴取も行い、慎重に検討することになると見通している。

 実は同様の事例は韓国で既に行われている。韓国では地方を中心にてんかんに対する偏見が強いといわれ、09年にてんかんについてこれまで使用してきた「癇疾」から「脳電症」と名称を変更し、関係学会も公式名称として承認。同国国会で法令用語としても新病名が認められている。

 歴史の中でつけられた病名が社会的情勢の中で変わっていくことは仕方の無いことかもしれない。しかし、注意しなければならないのは、生活習慣病のように何かを覆い隠そうとするよこしまな意図や利益を誘導しようとする類の人間がいないかどうかだ。

 てんかんについては日本てんかん学会のホームページが詳しい。

(文=編集部)


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