"メタボケ"は食生活の改善で可能に?
急激な高齢化により、認知症を患う人は増加の一途を辿っている。厚生労働省は、認知症とその予備群も含めると約900万人存在すると発表。驚くべきことに65歳以上の4人に1人だ。認知症は、日本だけでなく先進国でも深刻化しており、とても他人事ではない身近な症状なのだ。
認知症の中でも、最も多いのが「アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)」だ。アルツハイマー病は、気づいたときには進行が始まっており、記憶だけでなく判断力や言語機能など大脳の機能全体が低下していく。1999年にエーザイから国内初のアルツハイマー病の進行を遅らせる「アリセプト」が承認、発売され、その後も新薬の開発は続いているが、決定的な治療法はまだない。
健康な人と認知症の人のグレーゾーンには、「MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)」という症状がある。いわゆる認知症予備群だ。MCIとは、認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じているが、日常生活には支障がない状態を指す。
MCIには次の5つの定義がある。①記憶障害の訴えが本人または家族から認められている、②日常生活動作は正常、③全般的認知機能は正常、④年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する、⑤まだ認知症ではない。
アルツハイマー病患者の脳内は"糖尿病状態"
最近注目されているのは、このMCIの段階に至る前の予防対策だ。2013年、九州大の生体防御医学研究所は、亡くなった88人の脳を解剖した結果、アルツハイマー病患者は、脳内の遺伝子が糖尿病と同じ状態に変化することを明らかにした。
福岡県久山町と協力した調査の結果、糖尿病を患うとアルツハイマー発症率が3~4倍に高まる点に注目。65歳以上の88人を解剖すると、脳が萎縮するなどアルツハイマーを発症した人が26人いた。さらに約40人の脳の遺伝子解析では、アルツハイマーを発症した人は糖代謝を制御する遺伝子や、インスリンを作る遺伝子が激減し、脳内が"糖尿病状態"になっていたという。
研究では、糖尿病患者は脳内の代謝が悪いため、神経細胞が死んでアルツハイマーの発症や進行の危険因子になることも判明。血糖値を調節するインスリンが脳内で働く仕組みを解明し、糖尿病状態から回復させる方法が分かれば、アルツハイマーの進行を防ぐことができる可能性があるという。
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授の森下竜一氏は、桐山秀樹氏の共著による『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』の中で、アルツハイマー病は"脳の糖尿病"であると警告。40代、50代からの生活習慣を改善することによって、アルツハイマーを予防できる可能性が高いとしている。
糖尿病による高血糖状態が長く続くと、血糖コントロールが機能しなくなり、脳の記憶能力が少しずつ失われる。糖質を制限して血糖値を正常な数値までコントロールし、肥満を解消することでインシュリン抵抗性を減らすことができる。
同書では最新研究にもとづき、「アルツハイマーにならない人の食生活」として具体的な食事スタイル・食事療法を提唱。メタボリックシンドロームによるアルツハイマー、"メタボケ"になるリスク軽減のため、30代からの実践を勧めている。
(文=編集部)