傷跡が残るか否かは医師次第。痛みなく、美しく治せる湿潤治療する医師はまだ少数派

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なぜ湿潤治療で美しく傷は治るのか?

 「消毒と乾燥」は化膿の予防という点では正しい治療だ。しかし傷を治すという観点では、治療とは正反対の処置なのである。

 傷はいかにして治るのか?その研究から湿潤治療は生まれた。

 浅い傷と深い傷で、傷が治る過程は少し異なる。浅い傷とは毛穴や汗管が残っている傷である。皮膚の一番表面には表皮があり、その下には真皮がある。表皮と真皮は異なる細胞だが、毛穴と汗管は表皮の続きであるため、毛穴と汗管が残っていれば、そこから表皮の細胞が遊走(移動)してきて、傷の部分で増殖し、傷部分の組織が再生する。

 一方、毛穴と汗管がなくなった深い傷の場合には、まず肉芽(にくが)と呼ばれる亜界組織が傷を覆い、そこへ周囲の細胞が遊走(移動)してきて、傷の部分で増殖し、傷部分の組織が再生する。

 つまり傷口の組織の再生カギを握るのは真皮と肉芽である。この2つは感染にも強く、丈夫な組織だが、乾燥に弱い。乾燥するとあっさり死んでしまう。カサブタは死んだ組織であり、その存在が細胞の遊走と増殖を妨げる。カサブタがやがて崩れ落ちたとしても、カサブタのあった部分は組織の再生が充分には行えず、傷口はきれいにならない。

 また傷にしみ出てくる浸出液は実は細胞の活性を促す物質であり、その点からも傷口の浸出液をガーゼで吸い取り、乾かす治療は、傷が治る過程を邪魔している。

 消毒薬はいかにして細菌を殺しているのか?細菌のタンパク質を壊すことで殺しているのだが、実は細菌よりも先に死ぬのが人間の細胞組織。傷口に移動して、傷口の組織を再生しようとしている細胞組織を、消毒薬は殺してしまう。だから消毒すると痛い。

 消毒せず、浸出液を乾かさないようにする湿潤治療によって、痛みもなく、早く、そして美しく傷は治る。傷が化膿するのは細菌が増殖したときである。細菌を増殖させないためには、浸出液が多くなりすぎたら吸収するが、少なくなりすぎないように乾かないように適度に保つ湿潤治療専用被覆材を使えばいい。湿潤治療専用の被覆材は、最近ではドラッグストアの絆創膏売り場に売られている。

正しい湿潤治療のやりかた

 

 傷ができた場合、まず流水でしっかり汚れを落とす。切れた皮膚などがブラブラとついている場合には、はさみできれいに切り取る。湿潤治療用の被覆材で傷を覆う。以上で終わり。非常にシンプルな治療だ。

 実際に傷ができたときにやってみると、その痛みの少なさ、治りの早さ、傷跡のない、美しい治り方に驚くだろう。

 湿潤治療用の被覆材の代わりに、食品用のラップも利用されている。長い間、湿潤治療は適切な治療行為と認められていなかったため、適切な医療材料がなかったことなどから、ラップを用いる方法はかなり広まり、湿潤治療のことをラップ治療と呼ぶ人も多い。しかし専用の被覆材とちがい、浸出液の量を適切に保つ機能がないため、化膿を起こしやすい。傷の状態を適切に判断して、適切な処置ができない素人がラップ治療を行うと危険だ。

 素人の手には負えない深い傷や火傷の場合、あるいは傷口に砂などが入り込んでしまった場合、また途中で化膿してしまった場合には、湿潤治療を行ってくれる医療機関に行って、受診しよう。最初に湿潤治療を始めた医師のひとり、夏井睦氏のサイト「新しい創傷治療」に医療機関リストがある。
「新しい創傷治療」湿潤治療関連の医師リスト
http://www.wound-treatment.jp/dr/0.htm

 このリストを見ても、まだまだ湿潤治療をしてくれる医療機関が少ないこと、ひとつの病院内でも湿潤治療をしてくれる医師がすべてではないことなどを思い知る。湿潤治療しない医師にかかって消毒され、ガーゼを当てられてしまったら、傷の治りは遅れ、傷跡が残りやすくなる。傷跡が残りそうなひどい怪我ややけどをしたときは、最初に湿潤治療をしてくれる医師のところへ行くことが大切だ。

(文=編集部)

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