経腸栄養によって命をつなぐ患者や現場の医師からの問題提起、厚労省はどうこたえるのか?

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医療品の規格変更にはとどまらない重大問題

 日本重症心身障害学会による検証プロジェクトメンバーで、長年重症心身障害児医療に携わってきた浅野一恵医師(社会福祉法人小羊園重症心身障障害児・者施設つばさ静岡)は次のように語る。
「そもそも厚労省が説明するように、世界各国での国際規格への移行が急速に進んでなどいません。国際規格への移行を推進する団体GEDSA(The Global Enteral Device Supplier Association)によると、米国において2020年8月時点での移行率は30%以下であり、特に在宅においては現行のコネクタが用いられています。GEDSA自体も在宅経腸栄養において国際規格が必ずしも最適でない場合もあると明言しています。(https://stayconnected.org/wp-content/uploads/2016/04/GEDSA-Enteral-FAQ-Clinician-FINAL-1.pdf)日本では国際規格を導入するという結論ありきで、在宅での問題点を視野に入れてこなかったことが現在の状況を生んでいます」

 今回厚労大臣あてに出された「ミキサー食注入で健康をのぞむ会」の要望書では、重症心身障害児者の在宅ケアに対する深刻な影響について以下のように記した。
『既存規格接続コネクタが出荷停止となり、径が細く備品装着やネジを回す作業が必要な「新規格接続コネクタ」のみの供給になれば、手指の酷使は増し、注入に要する時間は何倍にもなり、家族、施設等介護者の負担が増すことがわかりました。このため、ミキサー食注入を続けていくことが困難になり、それは重症心身障害児者にとって生命を脅かす一大事となります。「嘔吐」「下痢」「逆流性食道炎」「アレルギーの悪化」「肺炎」「拒食」「てんかん発作の増加」などの、ミキサー食注入によって改善されていた症状が再発し、免疫力低下により感染症にかかるリスクは増し、持病の悪化をも招き、生命を落とす危険性が高くなることは、家族がすでに体験していることです。すなわち、ミキサー食注入は生きるための大切な食事法であり、「既存規格接続コネクタ」は食事をするためになくてはならない「いのちづな」なのです。』

 今回の問題では特に重症心身障害児者の在宅ケアでの問題が浮き彫りになっているが、全国の高齢者施設で経管栄養を利用する高齢者は少なくない。ごく限られた医療機器の規格変更にまつわる小さなハレーションと済ますにはその影響は大きすぎる。

 淺野医師は「この問題は重大な生命の危機にさらされる一部の患者が全く考慮されない人権問題ととらえることもできる。厚労省は国民全体の健康を守るべき省庁であるはず。誤接続の問題だけではなく同様に在宅での健康被害を防止する責務があるはず。一つの視点だけで走り続けてしまっていることを危惧します。」

 一度決めたことに様々な問題が浮上しようとも、再検討や再評価は形式的に済ませ前任者の決定を覆そうとしない日本の官僚機構の特徴が如実に現れているような問題だが、果たして今回、厚労省はどのような対応をするのであろうか。注目したいところだ。
(文=編集部)

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