複数のメディアで、「ピロリ菌に感染している人のほうが、感染していない人より大腸がんにかかりにくい」と報じられ、胃がん予防のためのピロリ菌の除菌が、大腸がんのリスクを高めてしまうのではないかという懸念が広がった。
ピロリ菌が発見されたのは1979年のことで、感染すると慢性胃炎から萎縮性胃炎となり、さらに胃がんになる危険性が高くなることが知られている。94年にはWHO(世界保健機関)がピロリ菌を「1級発がん性微生物(Class I Carcinogen)」に指定しており、胃がんとの因果関係は今や常識ともいえる。
これまでピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気のみに健康保険が適用されていたが、2013年から慢性胃炎も対象となり、胃がん予防のためにピロリ菌の除菌は一般的な治療方法となっている。
ピロリ菌感染者は激減の一方で大腸がんのリスクは高まっている
そうだとすれば、ピロリ菌の除菌に関するさまざまな否定論をどう考えたらいいのか。大腸内視鏡の第一人者で乳酸菌などのプロバイオティクスにも詳しく、大腸がんのインターネット無料相談もこなす後藤利夫医師に話を聞いた。
「ピロリ菌がいなくなると大腸がんになりやすいと言えないことはないのですが、それだけでピロリ菌を除去しないという理由にはなりません。これまで、胃がんの原因は高塩分・低蛋白の食事といわれてきましたが、今は原因のほとんどがピロリ菌だとわかっています。一方、大腸がんの原因は高脂肪・低繊維の食事です。繊維質を好む乳酸菌の少ない人が肉を摂りすぎると、悪玉菌が炎症を起こしたり、脂肪を消化する胆汁酸から二次胆汁酸という発がん物質が生成され、大腸がんのリスクが高まります。
米国や欧州では、ピロリ菌感染者がだいぶ少なくなっており、日本でも1960年代から急減しているので、若い世代での感染者は少ないのですが、高齢者ではまだまだ多いままです。子どものときに主に母親からピロリ菌を受け継がなかった子どもは、同じ感染経路で乳酸菌も受け継げないのです。つまり、そのような現代人では、すでに相対的に胃がんになりにくいが大腸がんになりやすい傾向にあります」
胃がんになりにくい人が大腸がんになりやすい傾向があるとしても、ピロリ菌を除菌することで大腸がんのリスクが高まるといえるのだろうか。