自己判断で症状悪化や副作用の懸念
健保連の提言した薬剤費改革案。その根拠も、それなりに検証可能。各健保組合の財政が急速に悪化しているなか、この提言は一定の説得力を持つ。公的医療保険の適用外とすることに対して、「顧客が拡大する」(ドラッグストア関係者)と歓迎する声もある。
一方、家計負担が増加する、花粉症患者が医療機関に行かなくなれば、症状を自己判断するリスクが高まるといった、否定的な指摘もある。インターネット上では、さまざまな批判や懸念のコメントが絶えない。
都内の病院に勤務するある薬剤師は、安易に保険適用外とすることに懸念を示す。
「医療用医薬品として用いられた成分が、そのままOTC薬に転換された医薬品を『スイッチOTC医薬品』といいますが、この分野の医薬品は、解熱鎮痛剤のイブプロフェン、消炎剤のインドメタシンをはじめ、胃腸薬、鎮痛剤、水虫薬、アレルギー用薬など、非常に幅広いものになっています。花粉症治療薬が保険適用外となれば、雪崩を打ったように次から次へと保険適用外の薬剤が出てこないか心配です」
さらに、薬の副作用などの危険についても危惧する。
「本当に必要な患者に処方できなくなったり、素人判断で市販薬を服用することで、症状が悪化するようなことも起きる恐れがあります。花粉症治療薬のなかには、急激に眠くなる薬もあります。気軽にドラッグストアで購入して、十分な説明も受けないまま服用し、自動車を運転して事故を起こすなども考えられます。また、処方薬であれば調剤薬局で『お薬手帳』にしっかりと処方された薬の記録が残されますが、市販薬の記録は忘れられがちです。思わぬ薬剤相互作用で重篤な副作用が出てしまう可能性が高まります」
健保連はデータの試算結果を盾にしながら、身近な花粉症治療薬の損得や利害を持ち出し、保険適用除外(自己負担率引き上げ)を進めようとしている。加えて、9月に入り、後期高齢者(75歳以上)の医療費の自己負担額を、今の1割から2割に引き上げる政策提言を発表した。花粉症治療薬の保険適用除外も十分に議論されないうちに、今度は後期高齢者がターゲットにされた格好だ。
国民皆保険制度を維持するためには、給付と負担のバランスを取るよう進めていくしかないとする健保連の提案は、継続的に十分に議論されなければならない。
(文=編集部)