政府の認知症予防は危険だらけ 症状を進行させコミュニティを分断させる恐れも

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認知症予防の煽りがコミュニティの分断を招く

 2つ目は、予防を煽ることで生まれるコミュニティの断絶だ。
私の経験では、認知症予防に対して積極的なコミュニティほど、認知症のような症状が出てきた高齢者をコミュニティから排除する傾向がある。

「認知症が怖いから予防しないと」と大勢が語って、みんなでラジオ体操をするなど健康維持に熱心な長屋の住民では、認知症の住民が出てきたときに「あの人は前から違ったから」「生まれも違う地域だから」と、自分たちのコミュニティのメンバーとして捉えるのではなく、自分たちとの差異を強調して元から違ったように捉えようとする発言が多くなった。

 一方で、仲良くお話しする程度はするが、運動などの健康維持には積極的ではない長屋もある。

 ここでも最近認知機能が下がってきた高齢者がいるが、その高齢者は「ばっちゃん、またぼけてるなあ」と言われはするが、部屋には毎日誰かが出入りしてニコニコと生活している。

 政府によって予防を煽ることは、「健康でなければいけない」という思い込みを招く。

 認知症やその他の疾患で健康を損ねた状態になった人をみると、「そういえばあの人は運動してなかったね」「甘いものが好きだったから」と自分と違うところを見つけてコミュニティの外に追い出してしまいやすい。
最も介入が必要な軽度認知機能低下が放置される危険性

 そうなると、認知症対策もうまくいかない。ベルリン自由大学のサンク(Zankd)氏らの報告によると、認知症に関して最も不安が強くなり、尊厳を損ねるのは、認知症の前段階として知られる「軽度認知機能低下」の状態の人だ*5。

 一方でこの段階の人は、適切な介入を行うことで認知機能が改善する可能性があると期待されている。つまり、最も介入が必要な人だ。
しかし、認知症予防が喧伝される社会では、認知機能低下を指摘されるとコミュニティから疎外される懸念があるため、不安を共有することもできない。

 こうして本当に介入が必要な人が不安を誰にも伝えられないまま適切な介入が行われず、さらに認知機能が低下するという悪循環を生む可能性すらある。

「健康な人」と「そうでない人」の間で断絶がおきかねない

 今後、政府の取り組みにかかわらず、認知症の予防に取り組む高齢者は増える。そのとき、高齢者コミュニティ内で「健康な人」と「そうでない人」の間で断絶が起きることを私は恐れている。

 人は誰もが老い、健康を損ねる。高齢社会においては、特に健康状態の多様性が生まれる。そこでは、安心して病気になることができる社会こそ、政府が目指す姿ではないだろうか。

 まとめると、現在の政府が行っている認知症対策は、将来の成長分野の健全な競争を阻害し、さらに高齢社会の分断を招く危険がある。

 需要のある認知症の予防分野は民間部門の競争に任せ、民間部門では支援できないような高齢者が幸福な生活を送ってもらえるように環境を整備する――。
これが高齢社会での国のあり方ではないだろうか。
(文=森田知宏)

森田知宏(もりた・ともひろ)
東京大学医学部医学科卒業 2012年4月より亀田総合病院にて初期研修。 2014年5月より相馬中央病院内科医

参考文献
1. Young, J., et al., Aerobic exercise to improve cognitive function in older people without known cognitive impairment. Cochrane Database Syst Rev, 2015(4): p. CD005381.
2. Sabia, S., et al., Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ, 2017. 357: p. j2709.
3. Biessels, G.J., et al., Risk of dementia in diabetes mellitus: a systematic review. Lancet Neurol, 2006. 5(1): p. 64-74.
4. Xu, W., et al., Mid- and late-life diabetes in relation to the risk of dementia: a population-based twin study. Diabetes, 2009. 58(1): p. 71-7.
5. Zankd, S. and B. Leipold, The relationship between severity of dementia and subjective well-being. Aging Ment Health, 2001. 5(2): p. 191-6.

医療バナンス学会発行「MRIC」2019年9月3日より転載(http://medg.jp/mt/)

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難治性のむちうち症を改善 後編 東京脳神経センター 整形外科・脊椎外科部長 川口浩医師

前編『画像診断できない難治性のむちうち症を独自の治療法で改善』

原因不明で治療法がなく多くの患者さんが回復をあきらめていた難治性のむちうち症。東京脳神経センターで進む独自の治療で、めまい、動機、吐き気などの全身症状やうつ症状などの不定愁訴が大幅に改善しているという。その具体的な成果についてお話を伺った。

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