抗菌薬・抗生物質の用途を知っている人は、わずか37%!
なぜ風邪なのに抗菌薬がこんなに使われているのか?
これは、風邪の重症化や細菌性の合併症を防ぐため予防的に抗菌薬が処方されていた時代があり、<風邪には抗菌薬が効く>という社会的な誤解が生じたといわれる。しかし、現在では抗生物質の大量使用によって起きるデメリットの方が問題となってきており、風邪の患者に抗菌薬を処方する医師も少なくなっているという。
また、抗生物質大量使用の最大の問題は “薬剤耐性”だ。
国立国際医療研究センター病院のAMR臨床リファレンスセンターが公開している意識調査を見てみよう。
10代~60代の男女710名を対象に行った「知ろうAMR(薬剤耐性)、考えようあなたのクスリ」第3 弾『抗菌薬意識調査2017』(プレスリリース2017年11月9日)によると、 抗菌薬や抗生物質とは何か知っている人は、わずか37%だった。
抗菌薬がどのような病気に有効だと思うかという質問に対して、2人に1人が「風邪やインフルエンザに効く」と回答した。抗菌薬は細菌に対する薬であり、風邪やインフルエンザの原因となるウイルスには効かないことを知らない人が半数もいるのだ。
抗菌薬や抗生物質の用途について医師や薬剤師に質問したことがない人は42%、処方された薬を最後まで飲み切らなかったことがある人は37%にのぼった。
また、飲み残した薬をまたいつか使おうと思って保管している人は29%、体調が悪い時に飲んだことがある人は21%、家族や他人から貰った抗菌薬を飲んだことがある人は21%。抗菌薬を家族や知人間で使い回している人が多いことに驚かされる。そもそも抗菌薬は薬局での処方時に「必ず飲みきらなければいけない」と薬剤師に念を押されるはずだが……。
2050年に世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌によって死亡する
抗菌薬や抗生物質の無理解や不正使用、薬剤耐性菌の蔓延を防ぐ手立てはないだろうか?
国内でよく使われる抗生物質は、セファロスポリン系のセフカペン、フルオロキノロン系のレボフロキサシン水和物、マクロライド系のクラリスロマイシンなどがあり、肺炎などを引き起こす細菌を抑制できる。だが、ウイルス性の風邪やインフルエンザには効かない。
この事実はなかなか患者には浸透していないが、厚労省・医学界は対策を練り始めている。
2050年に世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌によって死亡すると推定されていることから、2017年6月に厚労省は薬剤耐性対策のために外来診療を行う医療従事者向けの『抗微生物薬適正使用の手引き 第一版』(対象:基礎疾患のない成人及び学童期以上の小児)を作成した。
医師が特に適性に使用すべき「急性気道感染症」と「急性下痢症」についての診断・治療手順のフローチャートの掲載や抗菌薬の処方について患者や家族に説明するポイントをまとめている。
また、2018年4月以降、風邪や下痢で初診を受け、副作用が出やすい3歳未満の乳幼児に抗生物質が不要と医師が判断した場合、病院や診療所に800円を支払う制度もスタート(患者負担は2割/未就学児)。保護者が抗菌薬を求めれば「ウイルスに効かない。副作用が出たり長引いたりする場合がある」「大部分は自然に良くなる」などの説明で保護者の理解を促している。
病院内で抗生物質を適正に使うよう教育したり、耐性菌の発生率を調べる医師、薬剤師らのチームを設置した場合の報酬も新設。厚労省は抗生物質の使用を最小限に止めつつ、薬剤耐性菌の蔓延を抑える施策を進めている。
患者としてできることは、いたずらに抗菌薬に頼ることなく、抗菌薬をよく理解し、処方されたら指示通りにきちんと内服することだ。少ない服用、間引き服用、早期の服用中止などの中途半端な飲み方は、耐性菌が増えるきっかけになりやすい。処方された薬剤は最後まで飲みきることも重要だ。
さらに、細菌によって有効な抗生物質は異なるため、残薬を別の機会、またはインフルエンザや風邪を引いた際に内服することも耐性菌が増えるきっかけを作ってしまう。予期しない副作用の危険性も高まる。
当然ながら他の薬剤と同様に副作用もあり、アナフィラキシーショック、薬疹、大腸炎、腎障害、けいれん、アレルギーなどを引き起こすことも報告されている。
薬剤耐性菌の克服は現時点では多難だ。抗菌薬や抗生物質の正しい知識を持ち、正しく服用すれば、薬剤耐性による死亡も抑制され、抗菌薬が本来持つ有効性も活かすことができるはずだ。
(文=編集部)