2005年以降、脳梗塞の治療法は劇的に改善
脳梗塞の治療法は、2005年10月に劇的に変わりました。詰まった血栓を溶かす組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA:アルテプラーゼ)の静脈注射法ができるようになったのです。
それまでも詰まった血栓を溶かす試みはありましたが、それほど効果的ではありませんでした。t-PA静注の効果が立証され、正式に臨床で使えるようになりました。
しかし、この治療法には条件があります。発症後、直ぐに病院に行くことができて、診察、CTスキャンやMRI、採血検査等を実施し、検査結果が要件を満たし、禁忌事項がなく、4.5時間以内に治療が開始できる場合に限ります。
2005年当初は3時間以内でしたが、2013年2月により多くの患者さんに実施できるように発症から4.5時間以内と改定されました。なぜ4.5時間以内に実施しないといけないかというと、時間が経つと、脳組織に障害が広がり、出血しやすくなります。それによって、t-PAを打つことで脳出血の頻度が高くなるからです。
とは言っても脳血栓溶解療法は万能ではありません。脳血栓溶解療法を4.5時間以内に実施できても、症状が改善するのは、治療ができた患者さんの20〜40%しかいません。逆に脳に出血を起こして症状が悪化することもあります。
20〜40%であっても、脳梗塞を発症したら一刻も早くt-PAの治療ができる病院にたどり着くことで、回復するチャンスをつかむことができます。顔の麻痺、腕の麻痺、言葉の障害の3つのうち1つでも症状があれば、遠慮しないで救急車を呼んで構いません。
「顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)」は救急隊員が脳卒中を見分ける尺度にしている症状です。先にご紹介したように、「顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)」に時間(Time)を加えて、ACT-FAST(アクトファースト)と覚えてください。救急隊はt-PAのできる病院へ運んでくれます。
「FAS」があれば遠慮せずに救急車を呼ぶこと
一方、t-PA静注だけでは改善しない例も少なくありません。最近では、t-PAを打ったあとに、動脈からカテーテルを脳の詰まった血管に誘導し、血栓を破壊したり、回収したりする治療法(血栓回収療法)が行われるようになってきました。t-PAを点滴しながら、血栓回収ができる病院へ救急車で搬送することもあります。これを「Drip and Ship」と呼んでいます。但しこの方法は脳塞栓には有効ですが、脳血栓にはあまり適応はありません。
さて、このようにキャンペーンをしても、ACT-FASTは、まだまだ皆さんには普及していません。「FAS」の症状があっても、かかりつけの先生に相談したり、様子を見たりすることが多いと思います。また、救急隊を呼ばずに、脳外科や神経内科のある病院に行くかもしれません。
でも、それでは4.5時間以内にt-PAが打てなくなる可能性が大きくなってしまいます。実際、病院に早く着いて、血栓溶解療法ができた脳梗塞の患者さんは、脳梗塞を発症した患者さんのうち5%程度しかいません。
救急車を呼べば、救急隊がt-PAを打ってくれる病院へ運んでくれます。ですから、近所の病院へ行くよりも、救急車を頼んだほうがt-PAが打てる確率がずっと高くなるのです。ともかく、「FAS」があれば遠慮せずに救急車を呼びましょう。
このように血栓溶解療法が実施できない患者さんがたくさんいるので、最近ではt-PAができなかった患者さんには血栓回収術を積極的に実施するようになっています(脳卒中ガイドライン2015)。但し、血栓回収術を実施できる病院は少ないので、それほど多く実施されているわけではありません。
そして、脳梗塞になって、手足の麻痺や失語などの障害が残ったら、早くリハビリテーションを開始することが重要です。重症を除いて、脳梗塞の治療は1週間ほどで安定しますから、7〜10日程度で回復期リハビリテーション病院(病棟)で移ることをお薦めします。急性期の病院でもリハビリは実施すると思いますが、回復期リハでは1日2〜3時間、土曜、日曜も休みなくリハビリを行います。リハ療法士が1対1で患者さんに張り付いてリハビリをします。
早く回復期リハへ移ることで、症状は良くなりますし、早く家へ帰れます。是非覚えておいてください。
(文=鈴木龍太:鶴巻温泉病院理事長)