リハジムはリハビリ難民を救えるのか?
東京・八王子駅から徒歩10分ほどの立地に、脳卒中後遺症の方のための機能回復・再発予防専門トレーニングをメインとした、まったく新しいコンセプトのジム「リハジム」がオープンした。運営するのは理学療法士で株式会社P3の代表も務める中村尚人氏だ。
この「リハジム」は、医療保険下で最高で40分(理学、作業、言語療法毎)と決まっている外来リハビリ訓練を「時間制限なしで開放」し、発症からの日数によって訓練を打ち切りにされてしまう患者たちに、施設が営業している限り訓練の場所を提供する。
近年の研究では、リハビリの訓練効果は訓練時間と比例して得られることが明らかになっており、保険の制限で思う存分訓練ができなかった患者にとって、この「リハジム」のような施設のオープンは朗報だ。
今回は中村氏に施設開設の目的や経緯、ジムで行われるリハビリの内容などについて詳しく話を聞いた。
立ち上げのきっかけは「川平法」との出会い
脳卒中は再発率が50%にのぼると言われている。しかし現在、発症した患者が、アフターフォローを十分に行なえる施設は、日本にはほとんどないという。
本来であれば、時間をかければかけるほど、機能回復の効果が高いと言われているにもかかわらず、患者たちは限られた時間の中でトレーニングを行わないといけない。それが現状だ。
中村氏はそんな現状に対し、回復に向けて努力をしたいと思う方に、時間制限を設けず、同じ立場の仲間と一緒に本物のリハビリのできる場を作ろうという思いから、この施設を立ち上げた。
きっかけになったのは一冊の本だという。「繰り返しの動作こそが神経回路を効率的に回復させていく」という促通反復療法「川平法」を唱える川平和美氏の著作『片麻痺回復のための運動療法――促通反復療法「川平法」の理論と実際』がそれだ。
「NHKが以前、この『川平法』の特集を放送したんです。NHKのディレクターの方が脳梗塞になって、それでリハビリセンターに通っていたんですけど、結局あまりよくならなかった。それで川平先生のところに行って新しい治療を受けたら、何年間もできなかった動きがふっとできるようになった。それを見て、日本にもこんなにすごい最先端のリハビリ方法があるんだって思ったんです」と中村氏は話す。
その後、川平氏は院長を務めていた鹿児島大学病院霧島リハビリテーションセンターを退館、東京・渋谷に新たに拠点を構え、九州と東京を行ったり来たりしながら「川平法」の教室を開設する。
中村氏も受講し、そこで聞いた川平氏のエビデンスに衝撃を受ける。
「お医者さんですし、大学の教授でもありますから、エビデンスは本当にすごいなと思いました。今まで言われてやっていたリハビリなんてのはエビデンスなんてなくて、慣習的なものでしかなかった。それに対して川平先生は、『これしかない』ってばんばんエビデンスを出してくるんです。ぐうの音も出なかったです」
中村氏は既存のリハビリの在り方に強い疑問を抱きはじめる。
「自分自身、12年間、病院でこの問題と向き合ってきましたが、『今までのリハビリをやっていてもだめなんだ』って気づいたんです。こんなに素晴らしい理論があって、NHKでも特集されているのに、病院ではまだ昔ながらのやり方をやっていて、恥ずかしくないのか?って。理学療法の30年、40年選手の人たちが、利権を取ってしまっていて、新しくてエビデンスのあるものを無視しちゃう傾向や風潮が、日本にはあるんです。それではダメだって強く感じました」と「リハジム」立ち上げへの思いを強めた。