乳がん検診に対する世界各国の考え方の違い
乳房は、乳腺と脂肪で構成されるが、構成比率は個人差がある。マンモグラフィ(乳房エックス線撮影)は、乳腺が白く脂肪が黒く写るため、乳腺が多い乳房は白く濃く写ることから、乳腺が多いタイプの乳房を高濃度乳房と呼ぶ。0~40代の比較的若い世代に多く、日本人女性の約4割を占める。
マンモグラフィでは、乳がんは白く写ることが多いため、先述のとおり、高濃度乳房は乳がんが見つかりにくい。つまり、乳房濃度が高い女性は、マンモグラフィの感度が低く、乳がんの罹患リスクが高まりやすい傾向がある。
そのため米国では、マンモグラフィの受診者への乳房の構成を通知する活動が広がり、50州のうち27州で通知が法制化されている。一方、対策型乳がん検診を主として行っている欧州では、乳房の構成の通知を義務付けている国はない。日本では、市区町村が行う対策型乳がん検診で、乳房の構成を通知するか否かが議論されている。何が問題なのか?
2018年3月21日、日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本乳がん検診精度管理中央機構は「対策型乳がん検診における高濃度乳房問題の対応に関する提言」を発表している。提言を簡略にまとめるとこうなる――。
対策型検診において受診者に乳房の構成(極めて高濃度、不均一高濃度、乳腺散在、脂肪性)を一律に通知することは現時点では時期尚早だ。
乳房の構成は、受診者個人の情報であり、受診者への通知を全面的に妨げるものではないが、通知するにあたっては、市区町村は、受診者の正しい理解が得られるような説明・指導と体制整備が必要になる。
高濃度乳房の実態、乳房超音波検査などの検診方法の効果、高濃度乳房を正しく理解するための方策などを、国および関係各団体は協力して検討して行く必要がある。
だが、その後、マンモグラフィでは乳腺もがんも白く写るため、罹患リスクが高くなることから、本人通知を求めるニーズがさらに高まってきた。
厚労省が「乳房超音波検査」を推奨しない理由
今年6月に厚労省は、市町村が行う対策型乳がん検診で異常を見つけにくい「高濃度乳房が判明した場合に受診者に伝えるべき内容」をまとめた(日本経済新聞:2018年6月1日)。
報道によれば、受診者に高濃度乳房を一律に伝える必要はないが、通知する場合は「高濃度乳房が病気でなく、追加検査も必要ないことが正しく理解されるように情報提供すること」を求め、全国一律に本人通知するのは時期尚早としている。
つまり厚労省は、高濃度乳房は乳房の性状であり、所見や疾病ではないため、高濃度乳房であることを理由に要精密検査と判定せず、原則として保険診療による追加検査は認めないと判断している。
現在、厚労省が40歳以上の女性に推奨している科学的根拠のある乳がん検診は、「マンモグラフィ」だけだ(有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版)。
一方、「乳房超音波検査」は、がん対策のための戦略研究「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(J-START)」が実施され、マンモグラフィと併用すれば、感度とがん発見率がおよそ1.5倍に高まる結果が得られている。
だが、死亡率の減少、特異度の低下などのエビデンスは不明だ。さらに、人的資源の不足のため、乳房超音波検査による乳がん検診を全国に導入する受け入れ体制が十分でない。以上の理由から厚労省は、高濃度乳房に対する乳房超音波検査を推奨していない。
しかし、マンモグラフィに追加して、超音波検査を対策型乳がん検診に追加すべきではないか? 受診者に高濃度乳房を通知すべきではないか? このような議論が高まっていることから、厚労省や日本乳癌検診学会デンスブレスト対応ワーキンググループは、対応策を検討している。
高濃度乳房の女性は、マンモグラフィに加えて乳房超音波検査を受ける必要がある状況は変わらない。高濃度乳房の通知を女性の健康意識を高める好機と認識し、厚労省は対応を急ぐべきだ。
乳がん検診を受けて「異常なし」の人でも、受診後、触診などの定期的にセルフチェックを欠かさず行い、乳房にしこりがあるなどの自覚症状があれば、速やかに医療機関を受診してほしい。
(文=編集部)