子どもへの「性的虐待」が国に重い財政負担を強いている(depositphotos.com)
子どもへの性的虐待は、その後の子どもの人生に大きな影響を与えることが分かっている。
それだけではない。この問題は国全体の経済にも甚大な影響をもたらすことが、米ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のElizabeth Letourneau氏らによる研究から明らかになった。
全米の児童保護機関のデータを分析した結果、米国で2015年に性的虐待の被害に遭った子どもたちにかかる生涯医療費や生産性の損失などによる経済的な損失額は、約93億ドル(約1兆円)と推定されたという。詳細は『Child Abuse and Neglect』(5月号)に掲載された。
被害に遭った子どもたちにかかる費用を合算すると……
Letourneau氏らは今回、子どもへの性的虐待による経済的な影響について検討するため、全米のすべての児童保護機関のデータを分析。
性的虐待の被害に遭った子どもたちにかかる、生涯医療費や児童福祉関連費、特殊教育費、暴力や犯罪、自殺に関連した費用、生産性の損失、質調整生存年(Quality- adjusted Life Year;QALY)を推定した。
2015年に報告された子どもの性的虐待は4万387件で、被害児童の75%は女児だった。
被害児童1人当たりの生涯の経済損失額は、死に至った場合、女児では112万8334ドル(約1億2400万円)、男児では148万2,933ドル(約1億6400万円)。死に至らなかった場合、女児では28万2734ドル(約3100万円)、男児では7万4691ドル(約820万円)だった。
なお、Letourneau氏らによれば、子どもへの性的虐待は通報され明るみになっていない例も多く、報告数は実際よりも少ない可能性があるという。
また今回の研究では、「性的虐待後に生存した子ども」にかかる経済損失額には大きな性差が見られたが、「男児に対する性的虐待について十分なデータがなかったためではないか」と同氏は説明している。