スマホ使用時は15分に1回首を休める
ではどうしたら、スマホ首病(首こり病)による不調から身を守ったらいいのだろうか?
まずは、今以上に首の筋肉を悪くしないことが大切だ。前提として、冬はもちろん夏でも、冷房などで首を 冷やさないように気をつける。首の後ろの筋肉をホットパックなどで温めると良い。
または、スマホやPCを使うときには簡単な体操も効果がある。松井理事長が考案した「松井式555体操」(https://tokyo-neurological-center.com/555neck-exercise/)も試してみたい。
そして慢性化してしまった首の筋肉の異常は、専門的な診断と治療を受ける必要がある。
東京脳神経センターでは、問診表への記入のあと、首を中心に34箇所の触診を行う。この触診で、病気の進み具合や重症度、どの部分の筋肉に異常が起きているかを診断するという。もちろん、首こり病以外の疾患が隠れている可能性もあるため、必要に応じて血液検査や頸部X線撮影、MRI撮影、脳波測定、平均機能テストなども実施される。
「首こり」の治療法は?
低周波による治療,写真提供・東京脳神経センター
治療はどのように行われるのだろうか?
「低周波治療と温熱療法が治療の柱。低周波治療はトップラーとSSPという2種類の治療器により行っている。TOPRAはトップラーウェーブという特殊な低周波波形を使用した治療法で、体内で筋肉や脂肪によって弱められても、十分に患部を刺激することができ深部の筋肉や組織を面で刺激し、緊張を解く。SSPは刺さない鍼治療で、電極を“筋肉異常点”に設置し低周波通電を行う。患者さんによって、どのポイントを治療するかは異なる。一般的な治療院で低周波治療を受けても、同じような治療効果は得られないと考えている」
この治療は、オプションのない保険診察だけの場合、1種類の低周波、遠赤外線照射、鍼、温灸といった内容となり1回20分弱で483円(3割負担の場合)。原則週に3~6回の治療を推奨しているとのこと。診断は東京脳神経センターで行うが、治療は自宅近くの提携治療院(虎ノ門、新宿、池袋、大宮、横浜、千葉、大阪、名古屋、博多)でも受けることができる。
「自覚症状がなくなると、治療をやめてしまう人が多い。自覚症状が消えても、治療期間の半分がようやく過ぎただけなので、多くの場合まだ首の異常は残っている。完全に首の異常がなくなるまで治療をしないと、半年から数年以内に再発する可能性がある。最後まできちんと治療をしてほしい」
きちんと最後まで治療を行えば、治癒率は95%以上だという。
同センターではまた「首こりが原因で起こる17の疾患」は、緊張型頭痛、めまい、自律神経失調症、うつ、パニック障害、ムチウチ、更年期障害、慢性疲労症候群、ドライアイ、多汗症、不眠症、機能性胃腸症、過敏性腸症候群、機能性食道嚥下障害、血圧不安定症、VDT症候群、ドライマウスだとしている。一般的にこうした疾患の治療は非常に難しいとされている。
前編の問診票で、5つ以上チェックがついたら首こり病の疑いがあり、10個以上ついたら要治療。この問診票のチェック数が副交感神経の異常の程度を表していると言う。どの診療科に行っても改善しなかった不定愁訴やうつ状態は、もしも首こり病が原因であれば首の治療で改善されるだろう。
(取材/文=渡邉由希・医療ライター)
松井孝嘉(まつい・たかよし)
東京脳神経センター理事長。
東京大学医学部卒業。1971年、東京大学文部教官となり頭頸部外傷・デッドボールの研究を行う。巨人軍の協力を得て頭部デッドボールの実験を繰り返し、野球用耳付きヘルメットを開発・実用化。これによりデッドボールによる死者を皆無にする。
その後、米国のアルバートアインシュタイン医科大学、モンテフィオーレ病院にて脳腫瘍・脳血管障害を研究。ジョージタウン大学にて世界初の全身用CTスキャナの開発に携わり、画像診断の先駆者として日本への導入・普及に尽力し脳卒中死者の激減に貢献した第一人者。
同時に世界初の本格的脳画像診断アトラスを制作・著作し世界でベストセラーとなり、医学書初の国際出版文化大賞、外務大臣賞を受賞。
78年「首こり病(頚筋症候群)」を発見し、2005年に診断法と治療法を確立。これが世界で初めて自律神経失調症の治療法となり、数々の不定愁訴の治療が可能になった。