シカ版「狂牛病」が世界で拡大(depositphotos.com)
1986年にイギリスで最初に発生し、一般的には「狂牛病」と呼ばれた「牛海綿状脳症(BSE)」のことを覚えている人は多いだろう。後にはヒトにも感染し、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こすことが判明。2001年には日本国内でも見つかり、人々を戦慄させた。
これは「伝達性海綿状脳症(TSE)」、別名「プリオン病」と呼ばれる致死性の伝染病だ。異常プリオン(感染性タンパク質)が体内に入ると、脳がスポンジ状に変わり、行動異常や運動失調などの神経症状を起こして、遂には死に至る。
そのプリオン病が、今度は世界のシカの間でじわじわと広がりつつある。
「フィンランドのシカ由来」を緊急調査
厚生労働省は4月13日、フィンランドの野生ヘラジカにおいて、シカ科動物のTSEである「慢性消耗性疾患(CWD)」の発生が伝えられたと発表した。
そこで各都道府県知事に対し、フィンランド産のシカ科由来動物原料を使用しているかどうか、製造販売業者に自主点検を指導する旨を通知。対象となるのは、医薬品、医療機器、医薬部外品、化粧品、再生医療等だ。
もしそうした製品を扱っていることがわかった場合は、速やかに厚労省に連絡した上で、今後の製造販売を当面見合わせるよう通達した。
また、農林水産省もCWDの侵入防止に万全を期すため、フィンランドからのシカ科動物およびシカ科動物由来の畜産物の輸入を停止した。なお、過去には同国からの輸入はなかったという。
シカ科由来の動物原料とは、どんなものに使われるのだろうか?
たとえば、バイオ医薬品を製造する時は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、水牛、シカ、カモシカなどの反芻動物の細胞や組織の抽出物を原材料として使うことがある。
また、シカから取れる麝香(じゃこう:ジャコウジカの雄の袋状腺嚢の分泌物)、鹿茸(ろくじょう:シカの幼角)、鹿鞭(ろくべん:シカの陰茎~睾丸)などには薬効が認められ、生薬として利用されている。
さらに化粧品では、シカ脂の保湿性を活かしたボディケア、ヘアケア用品などがある。
一方、今回の通達には含まれない健康食品では、シカの血や骨、腱、胎盤抽出物のプラセンタなどを配合したサプリメントもある。主にニュージーランドで盛んに生産され、美容や健康を志向する人たちの間で人気だ。