死亡リスクが高くなる因果関係は明らかではないが……
2007年から始まった「世界金融危機」は、失業率を高め、住宅の差し押さえ、自己破産の増加を煽った。そして、経済的な打撃や破綻を受けた人は、抑うつ、不安、薬物乱用、自殺などのリスクが高まりやすい……。
ただ、今回の研究は、なぜ「財産ショック」が寿命を短くする機序や、心疾患、糖尿病、がん、高血圧などとの因果関係を明らかにしていない。
しかし、Pool氏は「経済的な安定が崩れ、大きなストレスが生じれば、特に中高年の身体的・精神的な健康に、多大な悪影響を及ぼしかねない。貯蓄が少なければ、医療費や薬剤費を支払えない。もともと健康状態の悪い人は、財産を失いやすいかもしれない」と説明している。
また、「財産ショック」を経験した人は、新鮮で健康的な食品を買う余裕がない上に、安全にウォーキングなどができない住環境のために運動する機会も少ないので、QOL(生活の質)が低下しやすいかもしれない。
ただし繰り返すが、この研究は因果関係を証明するものではない点に注意が必要だ。
日本の自己破産件数は約7万件
「財産ショック」を経験した人でなくても、このコホート研究に基づいたデータを身につまされる思いで読んだに違いない。
一般社団法人日本疫学会によると、コホート研究は「1万人以上についてベースライン調査を終了し、5年以上の追跡を終了している」ことを条件にしている(参考:http://jeaweb.jp/activities/cohort.html)。
したがって、現在のところ日本の「財産ショック」と寿命に関するコホート研究はないが、「財産ショック」に関わりが深い自己破産のデータを見よう。
最高裁がまとめた2017年の個人の自己破産申立件数は、前年比6.4%増の6万8791件で、2年連続の増加。自己破産件数は、2003年の約24万件をピークに減り続けていたが、増加ペースがアップ。消費者金融規制の対象外になっている銀行カードローンの貸出し件数が急増しているのも大きな要因だ(参考:「朝日新聞」2018年2月13日)。
自己破産は40代に多い。銀行カードローンの残高が急増し、自己破産者が続出。銀行カードローンを利用する理由は、「生活苦」「生活費不足」(38.1%)、「冠婚葬祭費」(6.5%)、「医療費」(5.6%)、「住宅ローンの支払い」(4.1%)だ(参考「10M TV オピニオン」2017年10月02日)。
自己破産者の寿命や死亡率は、判然としない。ただ、多重債務による経済的な破綻と精神的な困窮が健康やQOLを脅かすリスク要因になるのは確かだ。
中年期に経済的に破綻しやすい人の特徴がある。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏によると「①見栄っ張り」「②楽天的」「③計画性がない」という3点が特徴とのこと。破綻を防ぐ得策は「①収入増」「②支出減」「③運用」の3点だが、当然な指摘だろう(参考「楽待不動産投資新聞」2016年5月18日)。
「財産ショック」という修羅場に陥らない便法はない。だが、この箴言なら、金欲に目が眩んだ根性を少しは引き締めるかもしれない。
「金を失うのは小さい。名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失えば、すべてを失う」――ウィンストン・チャーチル
(文=編集部)