尿膜管遺残症を手術して復帰
羽生選手を襲ったのは、不慮の事故が招いた脳しんとうだけではない。
事故後の2014年11月28日から開催されたNHK杯に出場し総合順位4位。12月12日からバルセロナで開催されたGPファイナル大会では日本男子初の2連覇。さらに12月26日から長野で開催された全日本選手権で3連覇を達成。目覚ましい躍進ぶりを示した。
だが、12月27日のフリー演技後、腹痛を訴え、30日に尿膜管遺残症の緊急手術を受ける。膀胱とへそをつなぐ尿膜管は、生後に不要になり、正中臍じん帯と呼ばれる線維組織に変化する。だが、残存した繊維組織が感染症を起こす尿膜管遺残症にかかると、へそから膿や尿の漏出、悪性腫瘍の発症、発熱、腹痛、重篤な腹膜炎を引き起こす。
羽生選手は、中国での激突事故で受けた腹部挫傷や体調不良によって、尿膜管が感染症が起こし、腹痛に悩んでいたのだ。尿膜管は必ずしも摘出する必要はないが、試合中に炎症を起こすリスクを避けるために、尿膜管を摘出する腹腔鏡下摘出術を選んだと思われる。
2016年には「リスフラン関節靭帯を」損傷
羽生選手の苦闘は続く。2015年末の全日本選手権の時から左足の痛みを訴える。日本スケート連盟は、2016年4月26日、「左足のリスフラン関節靭帯損傷のため、全治約2カ月間が必要」と公表する。
理学療法士の三木貴弘氏によれば、足の甲にはリスフラン関節と関節を安定させる靭帯があり、羽生選手が負った左足の甲の靭帯損傷は、爪先立ちになると関節に体重の負荷がかかるフィギュアスケートの選手に起こりやすいリスフラン関節靭帯損傷と見られる。
靭帯が損傷されると、体重をかける度に痛みが出るので、力が入らず、放置すれば、着地の衝撃が吸収できなくなり、足が変形する恐れがある。
治療法は、足底板などでアーチを保持しながらギブスを固定し、固定が取れたら歩行練習、走る練習、ジャンプ練習に移行する保存療法が多い。骨折を伴えば手術が選択される。着地の際に痛めた足の甲の部分に負担がかかる癖を修正したり、関節周りの柔軟性や安定性を高めるなどの工夫をすれば、負担が軽減されるので、再発は防げる。
三木氏は「リスフラン関節靭帯損傷は、安静が重要。治らないうちに焦って練習を再開すると、再び損傷する恐れがあり、完治したかどうかの判断の見極めが難しい」と説明する。羽生選手は、手術の必要のない保存療法で回復を図ったものの、再発のリスクはあるかもしれない。