さまざまな苦難を乗り越え五輪連覇を達成した羽生結弦選手(depositphotos.com)
2月17日、平昌五輪フィギュアスケート男子で、羽生結弦選手は、2014年のソチ五輪に続く2大会連続の金メダルを獲得した。金メダル連覇は、1952年に米国のディック・バトン氏が達成して以来、実に66年ぶりの快挙だ。
羽生は、昨年(2017年)11月9日、4回転ルッツの練習中に転倒し、右足関節外側靱帯損傷と診断され、翌10日に開幕のフィギュアスケートグランプリ(GP)シリーズNHK杯を欠場した。5連覇が期待されたGPファイナル出場を逃しただけでなく、平昌五輪の出場も危ぶまれた。
だが、治療とリハビリ、トレーニングに専念し、快挙につながった。受賞後のインタビューでは「頑張ってくれた右脚に感謝しています!」とコメントしている。
2014年のGPシリーズで「脳しんとう」を起こすが銀メダル
幼少期から喘息と闘いつつ、幾多のケガや事故を乗り越え、気丈に克服してきた羽生。ソチ五輪後に遭遇した致命的な傷病の足跡をフラッシュバックしてみよう――。
2014年11月8日、中国上海で行われたフィギュアスケートのGPシリーズ第3戦中国杯最終日。男子フリーの直前練習をしていた羽生選手は、中国のイエンハン(閻涵)選手と正面衝突し、顔面からリンクに打ちつけられたため、脳しんとうが疑われた。傷に絆創膏を貼る応急手当後も棄権せず競技へ。計5回のジャンプの着地に失敗して転倒しながらも、トリプルアクセルを決め、銀メダルを獲得した。
帰国後の精密検査の結果、「頭部挫創、下顎挫創、腹部挫傷、左大腿挫傷、右足関節捻挫による全治2~3週間」と診断される。
脳しんとうは、頭部や顎への衝撃によって意識障害、記憶喪失をはじめ、めまい、平衡感覚喪失、頭痛、吐気、視界不良などを起こす障害だ。脳しんとう後の24時間は安静、競技復帰は最低で1週間後とされる。短期間で2度目の脳しんとうを起こす「セカンドインパクトシンドローム」に陥れば、致死率50%以上のリスクがある。
日本脳神経外科学会と日本脳神経外傷学会の提言によれば、脳しんとう後に競技や練習を続けると何度も脳しんとうを繰り返すため、急激な「脳腫脹」や「急性硬膜下血腫」などの致命的な脳損傷を起こすことがある。したがって、ただちに競技や練習を停止し、症状が完全に消失してから徐々に復帰すべき、としている。
意識消失がなく、15分以内に軽快する「軽度」でも1週間、軽快に15分以上を要する「中度」や数秒でも意識消失がある「重度」なら2週間以上の休養が必要だ。全国柔道連盟も1日から数日は練習を休止し、安静観察し、医師が脳しんとうと診断した場合は2~4週間の練習休止と定めている。
羽生選手は「中度」以上だったことから2週間は休養が必要だった。事なきを得たのは実に不幸中の幸いだった。