2017年1~9月に自主返納の高齢ドライバーは18万4897人(depositphotos.com)
85歳の容疑者は、半年前ごろから、車を車庫に接触させるなどの物損事故をくり返していた。再三にわたる家族の免許返納の説得も無視し続けたため、今年の年頭には「カギを隠す」旨を宣告されていた――。
しかし、1月9日の朝、一瞬の隙をついて家族の目を盗み、通常よりも2時間早く車を発進させて、市内の老人福祉センターをめざした。事後の家族証言によれば、当日の老人の体調は良くなかったという。
群馬県前橋市、午前8時半前――。老人の運転する車は350mほど手前のコンビニ近辺から蛇行運転をしだし、センターラインをはみ出し、交差点で右折待ちしていた他車のサイドミラーに衝突!
勢い逆走するかたちで、始業式に向かう女子高生2人をはね(いずれも重体)、その間にも違う車や壁に激突し、自車は横転もした。
老人と面識もある現場目撃者が事故車に近づくと、老人は座席で胡坐(あぐら)をかいたままで呆然状態。「気が付いたら事故を起こしていた……」とは、自動車運転処罰法(過失致傷)の疑いで逮捕された85歳の容疑者が、警察の調べに対して語ったあまりにも虚しい一言だ――。
自主返納と説得無視の明暗分岐点は……
85歳という年齢を聞いて連想したのが、昨年(2017年)の『春の全国安全運動』を前に東京都と警視庁が開催したイベントにて、運転免許証を自主返納するセレモニーに臨んだタレントの高木ブーさんのコメントだ。
「家族の一言で返納を決めた」と動機を語った高木さんは、同イベント直前に84歳になったばかり(今年3月で85歳に)。免許に代わる今後の高木さんの身分証明書となる「運転経歴証明書(パネル版)」を手渡した小池百合子都知事も、こう来場者に呼びかけた。
「運転に心配な人がいたら、警察に相談してほしい」
3万170人――。この人数は、75歳以上の認知機能検査が強化された「改正道路交通法」(2017年3月施行)以降、半年間で「第1分類」と判定されて、晩秋に暫定公表された高齢ドライバーの数である。
「認知症の恐れ」が疑われる第1分類は、「医師による診断を受けること」が義務づけられている。
上の数字をやや上回る3万2061人――。こちらは大阪府内で2016年、運転免許証を返納した高齢者(65歳以上)の人数で「初の3万人台達成」だった。
反応率3.43%と聞くと「少な……」と思う方もいるかもしれないが、府警によれば、大阪府の場合、2014年(2.47%)と2015年(3.21%)は「2年連続の全国最高(値)」という。
自主返納した場合、身分証明書の代用として前掲の「運転経歴証明書」が申請できる。また、協力商店などで優遇サービスを受けられるメリットも生じる。
「そんなので効果あるの!?」と疑う向きもおられるだろうが、じつは「2年連続で全国最高」の返納率を達成した大阪府と府警でつくる府交通対策協議会よれば、これこそがメリット(特典効果)の好例。高齢者の気持ちはなかなか侮れない。