すり減った「聴力」は二度と元に戻らない
WHOは、85dB(自動車、街頭の騒音)以上を「難聴リスクのある騒音レベル」とし、1日当たりの許容範囲を以下のように示している。今回のトロントの調査と照らせば、ゆうに110dBを超えていたピーク騒音の影響が気がかりになる。
●WHOによる1日当たりの騒音の許容基準
130dB(航空機のエンジン音)…………………1秒未満
125dB(雷)………………………………………3秒
120dB(救急車や消防車のサイレン)…………9秒
115dB(ポップ音楽コンサート)………………28秒
100dB(ドライヤー、パワードリル)…………15分
95dB (オートバイ)……………………………47分
85dB(自動車、街頭騒音)……………………8時間
日本の都市部でも、首都圏や関西圏はトロントと同等の騒音レベルである可能性はあるだろう。特に首都圏は長時間通勤者が多く、毎日3時間以上電車に乗り続けている人も珍しくはない。
電車や地下鉄の車内の目安は約80dBとされているが、それでも毎日数時間さらされることによる影響はないのだろうか。
もっと危ないのは、通勤中にイヤホンやヘッドホンで音楽を聴き続けている人だ。騒音のある場所で音楽を聴く場合は、周囲より20dBほど大きな音が必要になる。聴力にダメージを与えないためには、平均85dBで1日1時間にとどめるべきといわれているが、通勤電車では軽く超えてしまうだろう。
いわゆる騒音性難聴は、85dB以上の騒音を長時間聞く習慣を続けていると、内耳の蝸牛にある「有毛細胞」が障害を受け、その一部が回復不可能になるために起こるもの。
この細胞は一度アポトーシス(細胞の自殺)を起こすと、再生できずにどんどん死滅してしまう。その結果、外耳〜中耳を通じて送られてきた音が捉えられなくなり、断片的な情報しか脳へ送れなくなる。
聴力は酷使するほど「使い減り」し、二度と元には戻らないのだ。
毎日バスや電車の中で騒音にさらされている人は、今からでも耳栓を使うなどして、耳への負担を軽くすることをお勧めしたい。また音楽を聴くのなら、イヤホンより耳を覆うヘッドホンを。
特に、周りの雑音を消すノイズキャンセル機能付きのヘッドホンなら、音量を絞って高音質で楽しめる。通勤時間が長い人はぜひ耳を守る工夫をしてほしい。
(文=編集部)