難聴はアルツハイマーになりやすい!? shutterstock
高性能な携帯音楽プレーヤーやスマホの普及により、音楽はより手軽に「持ち歩けるもの」になった。最近は、街中でもイヤホンや大型のヘッドホンをつけて歩いている人が珍しくない。
一方で注意が必要なのが、若年齢の難聴。耳は音の大きさだけでなく、音を発しているものまでの距離が近いほど聴覚にダメージを受けやすいため、特にヘッドホンやイヤホンを長時間使っていると難聴を起こしやすいのだ。
11億人の若者が難聴の危険に
去る3月3日「国際耳の日(International Ear Care Day)」に合わせて、WHO(世界保健機構)は、若者の難聴リスクに警鐘を鳴らすリリースを発表した。それによると、世界の中高所得国に住む12〜35歳の若者の半数近く、実に11億人がヘッドホンやイヤホンで音楽を聴くことで難聴の危険にさらされている。
さらにクラブなどでの大音量で難聴になる危険がある若者の割合も、約40%に及ぶという。そして「若者らは聴力をいったん失えば二度と回復しないことを肝に銘じる必要がある」と厳しい言葉で警告している。
音は空気が振動することで伝わるが、その振動を感じ取って脳に信号を伝えるのが、耳の奥にある蝸牛(かぎゅう)の細胞だ。大きな音に長い時間さらされるとこの細胞が傷ついて死んでしまい、難聴が起こる。死んだ細胞を再生させる治療法はなく、正常な聴力を維持するには予防しかない。
WHOによると、危険なレベルの音量とは、自動車の騒音(85dB=デシベル)から地下鉄による騒音(100dB)に相当。リリースでは、生活騒音の許容基準を次のように示している。
●騒音レベルと1日当たりの許容基準
航空機のエンジン音(130dB)......1秒未満
雷(125dB)......3秒
ブブゼラ(120dB)......9秒
ポップ音楽コンサート(115dB)......28秒
ドライヤー(100dB)......15分
オートバイ(95dB)......47分
自動車(85dB)......8時間
掃除機(75dB)、洗濯機(70dB)、エアコン(65dB)、普通の話し声(60dB)は基準なし
ちなみに今のイヤホンやヘッドホンは、最大出力で100dB〜120dBの性能がある。電車の中などで周囲がうるさいからと音楽のボリュームを上げすぎると、前記の許容基準などすぐにオーバーしてしまうだろう。
WHOはスマホやオーディオ機器での音楽鑑賞は聴力を守るため「1日1時間以内」に控えるべきだとの指針を発表。さらにコンサートや音楽フェスなどのイベントでは耳栓を使い、ヘッドホンやイヤホンはボリュームを上げなくてもよく聞こえる、ノイズキャンセリング機能付きのものを使うよう勧めている。
難聴が重いほど認知症になりやすい
当然だが、難聴は人とのコミュニケーションに支障を与える。特に高齢者では、周囲への無関心や社会的孤立につながりやすい。しかしもっと怖いのは、耳が聞こえにくいことが認知症のリスクを高める可能性が指摘されていることだ。
それは2011年に米国立加齢研究所(NIA)が発表した研究によるもの。認知症と診断されていない36〜90歳の男女639人を対象に、1990年から4年間にわたり認知力と聴力検査を実施。その後2008年まで追跡調査を行い(平均約12年)、難聴と認知症やアルツハイマー病との関連性について調べた。
すると125人の被験者が「軽度」、53人が「中等度」、6人が「重度」の難聴と診断された。そして最終的に58例が認知症を発症し、うち37例はアルツハイマー型認知症であった。
さらなる分析の結果、試験開始時に軽度の難聴があった場合、認知症のリスクは正常な人の1.89倍に。中等度の難聴があるとリスクは3.00倍、高度の難聴があるとリスクは4.94倍に跳ね上がった。アルツハイマー型認知症でも、難聴の程度が10dB増加するごとにリスクは1.20倍になったという。
この研究は、難聴と加齢に伴う認知力低下との間に予測的関連性があることを示唆している。元気に老いるためには、耳の健康年齢も極力若く保つことが大切なのだ。認知症など遠い未来の話だと思うなかれ。外出中など常にイヤホンやヘッドホンに依存している人は、何気なく聞いている音楽が耳を痛めつける危険性をもっと意識するべきだろう。
(文=編集部)