大気汚染は精子の質を低下させる?(depositphotos.com)
香港中文大学公衆衛生・一次医療学部のXiang Qian Lao氏らの研究チームは、「微小粒子状物質PM2.5への曝露が精子の形態異常をもたらし、精子の質が低下する」とする研究成果を『Occupational & Environmental Medicine』11月21日オンライン版に発表した。
Lao氏らは、2001~2014年に検診を受けた15~49歳の台湾人男性6475人(平均年齢31.9歳)を対象に、精子の質(総数、形状、サイズ、運動率)、PM2.5への曝露レベル(居住地の3カ月単位・2年間の濃度)を分析・評価した。
その結果、喫煙、飲酒、年齢、体重などの影響を考慮しても、PM2.5への曝露と精子の形態異常との間に関連が認められた。さらに、2年間平均のPM2.5濃度が5μg/m3増えるごとに正常な形態の精子が1.29%減少し、正常な形態の精子の割合が下位10%になるリスクが26%増大した。PM2.5への曝露は精子濃度の上昇に関連することも分かった。
Lao氏は「身体が精子の質の低下を克服しようとする代償的な反応ではないか」と説明する。
PM2.5には精子損傷との関連が認められている物質が含まれている
大気汚染が精子に影響を及ぼす正確な機序は明らかではない。だが、PM2.5には精子損傷との関連が認められている重金属や多環芳香族炭化水素類などの物質が含まれている。
Lao氏は「PM2.5による大気汚染は世界に広がっているため、多くの男性が影響を受けている可能性がある。精子の質を改善するためにも世界的な大気汚染への対策が求められる」と主張する。
米レノックス・ヒル病院のTomer Singer氏によると「数十年前から精子の濃度および運動率の低下や形態異常の増加が認められていたが、原因を突き止めるのが困難だった」という。
米ノースウェルヘルスのManish Vira氏は「この研究は大気汚染と精子の異常との関連を裏付ける強いエビデンスとなる。ただし、このような影響がみられるのは大気が極度に汚染された地域に限定されると考えられる」と発言する。
さらに、Lao氏は「大気汚染は精子の形状およびサイズの異常と有意に関連していた。したがって、大気汚染は相当数のカップルに不妊をもたらしている可能性がある」と指摘。ただし、「この研究は観察研究であるため、大気汚染が原因で精子の質が低下するという因果関係を示したものではない」と強調している。