深刻な大気汚染に悩む中国 shutterstock.com
地球温暖化の原因であり、私たちの健康にも悪影響を及ぼす大気汚染。近年では、大気汚染物質の微小粒子PM2.5が、中国から大量に飛来する可能性があると報じられ、日本でも大きな問題になっている。
今年4月、米国心臓協会学術誌 "STROKE" に掲載された研究論文で、PM2.5で汚染された空気を毎日吸い込むと、脳に変化が生じ、認知機能障害をもたらす可能性があることが示された。
調査対象者は、米国ニューイングランド地方に住む60歳以上の943人の健康な成人。MRI(磁気共鳴映像法)で対象者の脳の構造を調べ、その画像と居住地域の大気汚染レベルとの関係を調査した。
無症候性脳卒中リスクも約5割上昇
この研究では、大気中のPM2.5が1立方メートルあたり2マイクログラム(μg/m3)増えると、脳容積が0.32%減少することが判明した。2μg/m3の増加は、ニューイングランドやニューヨークの大都市圏で普通に見られる範囲である。
粒径が2.5µm(1µmは1mm の1000分の 1)以下という非常に小さなPM2.5は、炭素、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどを成分とし、肺の奥まで入り込みやすく、呼吸器系や循環器系などに影響を与えることが懸念されている。発生源は、ばい煙や粉塵を発生させる工場など複数考えられるが、最も一般的なのは排出ガスを出す自動車である。
この論文の研究著者で、ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センター心血管疫学研究ユニットの研究者、エリサ・H・ウィルカー氏は、「この脳容積の変化は、脳の老化約1年分に相当するものです」と説明。一般的に脳容積の減少の原因は、加齢に伴うニューロンの喪失であるという。
また、PM2.5が2μg/cm3増えると、無症候性脳卒中発症のリスクも46%高くなった。この無症候性脳卒中とは、脳スキャンでは検知されても通常は症状が見られない脳卒中を指し、認知機能の低下や認知症と関連があるといわれている。
研究では、より大気汚染レベルの高い(PM2.5の濃度が高い)地域の住人は、少ない地域の住人よりも脳容積が小さく、無症候性脳卒中のリスクが高いことも明らかになった。
大気汚染と子供の脳の関連性を調べた研究はこれまでにもあったが、高齢者を対象に大気汚染、脳容積、そして無症候性脳卒中リスク間の関連性を調査した研究は、これが最初のものだ。
大気汚染が人々の脳をどのように変化させるかは不明だが、大気汚染が炎症を増加させるのではないかと推測されている。同研究によると、過去の調査で脳容積の減少と炎症マーカーに関連があることがわかっているという。
ウィルカー氏はこの研究結果に関して、「大気汚染と脳卒中や認知機能障害のような深刻な脳疾患との関連性を理解するのに、非常に重要なものになります」と述べている。
なお、日本におけるPM2.5など大気汚染物質濃度の測定データは、環境省の大気汚染物質広域監視システム<そらまめ君>や、各都道府県のホームページで公開されている。
(文=編集部)