子供の生活習慣病患者はこの30年で激増している
2010年に書かれた総説を読むと、北米の子供たちの実に40%がBMI25を超える「過体重」、あるいはBMI30を超える「肥満」だとされていますが、これらの数字、1980年ごろからの30年間で一気に2~3倍に増えたそうです。2型糖尿病はさらにハイペースで増えています。
実は肥満小児の数は、アメリカ以外の国でも同じ時期に2~3倍に増えていて、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、そして日本でも同様であると報告されています(出典:Childhood Obesity - 2010: Progress and Challenges)。
1980年に何があったのか? この連載の最初の記事にも書きましたが、1980年前後にアメリカ政府が勧告で「高カロリーでコレステロールの過剰摂取が生活習慣病を生みだしている。高脂質の食事をやめて、高糖質で低脂肪な食事に変えるべきだ」という声明を出して、実際に食事指導に乗り出しました。それから30年でアメリカだけでなく世界中の2型糖尿病患者と肥満患者は激増しました。これが大人だけでなく子供にも影響を及ぼしているものと考えられます。
大人の病気だと考えられていた、生活習慣病、2型糖尿病に、子供たちが苦しむようになっている。少なくとも、高糖質・低脂肪食が子供の健康にも悪いことは明らかです。
離乳食で肉を食べた幼児の体格と健康状態は明らかに良好である
子供の糖質制限に反対される方々が口々におっしゃるのが、「育ち盛りの子供の食事から糖質を減らして発育が阻害されたらどうするのだ!」というセリフです。子供には糖質をたくさん食べさせないと身長が止まる、脳の発達に悪いと心配されます。
農耕が始まる前の人類は身長が低かったのでしょうか? 逆です、化石の骨格を調べることで狩猟採集生活の時代の人類は農耕人類よりもむしろ体格がよかったことがわかっています。農耕開始とともに人類は小さくなっているのです。
狩猟採集生活をしていた人類は農耕人類よりも頭が悪かったのでしょうか? こちらは文明の記録がないのでわかりませんが、頭蓋骨から計算される脳容積に遜色はありません。そして、文明社会に住まずにサバイバルするため、一人一人の知識や判断力は現代人よりも優れていないと生きていけなかったと推測されています(参考:ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』河出書房新社)。
ここで、2014年頃から報告されている離乳食に関するいくつかの研究論文を紹介します。母乳はそもそも高脂質・高たんぱくで低糖質です。これらの論文では生後6か月から18か月までの乳幼児に離乳食として肉、穀物、あるいは鉄分強化穀物、を離乳食として与える研究がなされています。中国農村部やアジアの貧しい国で、乳幼児の栄養状態が良く無い地域での研究なのですが、以下のことがわかっています。
①離乳食として肉を主に与えられた乳幼児の成長が一番良くて貧血も改善すること。
②離乳食として肉を与えられても知能の発達に何のトラブルもなかったかむしろ良かったこと。
③鉄などの穀物に不足する栄養素を添加した強化穀物を食べた幼児では、貧血は改善したものの成長はもっとも悪く、しかも血液を調べると炎症状態が認められたこと。
【出典】
The Effect of Iron Fortification on Iron (Fe) Status and Inflammation: A Randomized Controlled Trial. PLoS ONE 2016 ; 11(12)
Food Based Complementary Feeding Strategies for Breastfed Infants: What's the Evidence that it Matters? Nutr Today. 2014 ; 49(6): 271
このように、現代人の乳幼児の離乳食でも肉食は体格がよくなるなどの利点があり、それを穀物に鉄分強化をして人工的に補おうとすると炎症が起きるという研究結果となっています(鉄分はたんぱく質との同時摂取が重要なのです)。