近藤誠氏「ワクチン副作用の恐怖」は真に妥当性のある意見なのか?~批評(2)

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風疹の予防接種は女性だけでいいという時代錯誤

 次に風疹です。

 風疹についても、近藤氏はやはりワクチンの効果は認めています。が、先天性風疹症候群(CRS)が問題になるのは女性だけだから、女性だけがワクチンを打てばよいと主張します(41頁)。

 しかし、CRSを防ぐ責任は当然男性にもあるわけです。ワクチンは周りの接種者が増えれば増えるほど、集団全体の病気のかかりにくさが減る性質があります。いわゆる「群れの免疫」です。

 ワクチンといっても100%完全な防御能力があるわけではありませんから、ワクチンを打った女性でも風疹にかかることはあります(このことは近藤氏自身が「恐怖」で指摘しています)。ワクチンを打ってないよりもずっとかかりにくくなっているだけで。よって、周辺の男性が免疫をつけることで女性とお腹の赤ちゃんを守ってあげるのは理にかなっている。

 そもそも昔は日本でも女の子だけに風疹ワクチンを接種していたんです。近藤氏と同じロジックを使って。それでもCRSが撲滅できないから1995年以降、現在のように男女ともに予防接種をうけているわけです。前述のキャッチアップの制度が日本にないためにまだ十分な接種率になっていませんから、日本では今でもCRSが撲滅できていません。

だから、近藤氏のように根拠なく「昔にかえれ」というのは理にかなっていません。

ワクチンを止めたら、患者の増加が想定される

 次に、百日咳、ジフテリア、そして破傷風です。

 これらはまとめて「三種混合ワクチン(DTaP)として定期接種で予防する感染症です。もっとも、近年ではこれに不活化ポリオやB型肝炎など、他のワクチンも組み込んだ混合ワクチンが用いられるようになってきていますが。

 近藤氏は、やはり前述の「ワクチン導入以前から病気は減っていた」論を使って、ワクチンの必要性は乏しいと主張します。このロジックは間違っていることはすでに述べました。

 実際、麻疹とか百日咳などは、現在でも予防接種を打っていないと再び流行が起きてしまうのです。例えば、伝統的に予防接種を受けてこなかったアーミッシュと呼ばれる人たちの間で百日咳や麻疹の流行が起きています(News reporter LR and videographer TL KY3. 300 Amish people got shots for whooping cough [Internet]. [cited 2017 Nov 8]. Available from: http://www.ky3.com/content/news/whooping-cough-amish-seymour-423715413.html。N Engl J Med. 2016;375:1343-54)。

 実は、アーミッシュの人たちは宗教や思想的な理由からワクチンを拒否しているのではなく、単なる知識不足が原因だったことが最近の研究でわかっています(Pediatrics. 2011;22:2009-2599)。ですから、このような感染症の流行を抑えるために彼らにも予防接種が緊急避難的に行われました。

 私はときどき破傷風の患者さんを見ます。破傷風菌は土の中にいる菌です。日本中に存在します。破傷風の患者さんが激減したのはワクチンのおかげでもありますが、残念ながら子供のときに打ったワクチンの免疫は年とともに落ちていきます。それに、日本の高齢者はそもそも子供の時の予防接種を受けていません。

 農作業中に怪我をしないといった工夫で破傷風の予防効果はある程度はありますが、絶対的なものではありません。また、集中治療の進歩で破傷風の患者さんも救命できることは増えましたから、それも近藤氏の言う「死亡率の低下」には寄与しているでしょう。

 とはいえ、破傷風の患者さんは筋肉の異常が長く続き、集中治療室で何週間、場合によっては何ヶ月という治療を必要とします。そのようなたいへんな病気を「死亡率が減ったから予防しなくてよい」というのは誤った論理だと言わざるを得ません。

 同様のことは、これも日本に存在する日本脳炎ウイルスについてもいえます。日本脳炎患者は日本で激減しましたが、これはなんといっても予防接種のおかげです。ワクチンを打つのを止めたら、また日本脳炎の患者は増えるでしょう。決定的な治療法がなく、死亡率の高い日本脳炎。予防接種の必要性は(破傷風などと同様)とても高いのです。

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