ポリオワクチンは不活化ワクチンへの移行期
次にポリオです
近藤氏のポリオワクチンの有効性に関する評価は概ね正しいです。ポリオワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがあります。生ワクチンは効果が高いですが、そのワクチンそのものがポリオの原因になってしまうという重大な副作用が問題です。不活化ワクチンのほうはより安全ですが、こちらは生ワクチンよりも有効性が乏しい。
現在は日本に天然のポリオウイルスは存在しません。長年の懸案であった不活化ワクチンもようやく定期接種に組み込まれ、ポリオの生ワクチンの副作用に苦しむこともなくなりました。
近藤氏は、ポリオはパキスタンとかアフガニスタンでしか発生していないのだから、日本で不活化ワクチンを接種するのも無意味だ、と主張します。
一見、論理的に見えるこの主張ですが、実は間違いです。
なぜなら世界ではまだたくさんの国で経口生ワクチンを接種しており、このワクチン自体がポリオを発生するリスクがあるからです。たくさんの外国の方が日本を行き来するグローバル化の現代において、これは看過できないリスクです。
青が経口生ワクチンを使っている国。水色が使っていない国。2015年。米国CDCより。 https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6425a4.htm (閲覧日 2017年11月8日)
現在、世界では経口ワクチンから不活化ワクチンへの移行を進めています。将来的に自然界のポリオが撲滅され、また生ワクチンの使用者もいなくなることでしょう。そのときには近藤氏が主張するように、不活化も含めてポリオワクチンは不要となるでしょう。かつて天然痘ワクチンがそうであったように。しかし、今はまだその時期ではない、ということです。
麻疹で欠如している双方向性のリスク視点
次に麻疹です。
近藤氏は概ね麻疹ワクチンの有効性については正しく論じています。ただ、ここでもリスクを双方向的に見ていません。
すなわち麻疹ワクチンについては「まれではあっても、脳障害のような重大な副作用が生じる」からよくないといい(38頁)、麻疹そのものについては死亡数がゼロ近くまで落ちているのだから気にしなくてよいと主張します。
実は麻疹ウイルスそのものも、「まれではあっても」亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる重大な脳の合併症を起こすのですが、近藤氏はそちらは無視しています。SSPEはほぼ全例が死に至るか機能廃絶をし、治療法もない重大な病気です。
近藤氏が指摘するように、日本はまだ海外からの輸入麻疹に苦しんでいます。麻疹ワクチンは1回接種するだけでは効果が不十分で、2回接種しなければなりません。日本では行政制度の不備のためにきちんと2回接種していない人が多いのです。
2回目の麻疹ワクチンは5-7歳で接種するよう勧められていますが、下の図のようにそれ以上の年齢で2回接種をしていない人がどの世代でも相当数います。これは日本では「キャッチアップ」というスケジュールを過ぎたあとの追加接種の制度を持たないことが大きな原因です。
国立感染症研究所より。
http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6416-measles-yosoku-vaccine2015.html (閲覧日2017年11月8日)