今回のシンポジウムのトピックは「がん免疫療法」(depositphotos.com)
10月12~13日、アメリカ・ワシントンDCで開催された「がん免疫とがん免疫療法」のシンポジウムに参加した。
このシンポジウムは、15年ほど前から「National Cancer Institute(NCI)」が主催するもので、世界でトップクラスのがん免疫学者や、がん免疫療法に取り組む研究者が集う。
今年は約1500人が参加登録したとのこと。参加者は近年増えてきており、私が参加し始めた頃に比べて、がん免疫療法への関心の高さを感じる。オーガナイザーは、がん免疫療法界を30年以上牽引してきたNCIのSteven Rosenberg博士で、自身も発表を行った。
世界一流のがん免疫学者の集まりゆえ、まだまだ臨床的に確立していない最新治療も発表された。しかし、<がん免疫療法の向かうべき道>が垣間見えた、高度なシンポジウムになったといえる。
新技術で80%以上の完全寛快
「がん免疫療法」は、「免疫チェックポイント阻害剤」(抗 PD-L1 抗体:薬剤名オプジーボ、キイトルーダなど)の登場で画期的な臨床効果を出しつつある。
がん細胞が<免疫にブレーキをかけている>状態では、免疫はがん細胞を攻撃できない。「免疫チェックポイント阻害薬」は、がん細胞が<免疫にブレーキをかける>仕組みに働きかけ、その<ブレーキを外す>ことで免疫細胞に本来の力を発揮させる。
私も、拙書『進行がんは「免疫」で治す 世界が認めた がん治療』(幻冬舎)』で一般の人にもわかりやすく解説してきた。
今回のシンポジウムで注目したのは、<新たな技術の本格化>だ。その新技術とは「CAR-T療法」である。アメリカ食品医薬品局(FDA)も10月18日、血液のがんの治療として新薬「アキシカブタゲン・シロロイセル(商品名イエスカルタ)」を承認した。
CAR-T療法は、患者の体から免疫に関わる細胞を取り出して遺伝子を改変し、再び体に戻すというものだ。若年者のB細胞リンパ腫に対して80%以上の完全寛快を得た――というすばらしい成績を得てる。
治療対象となるのは、「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」などの成人患者で、2種類以上の治療を受けた後、効果がなかったか再発した人とされている。
現時点では比較的に稀な疾患にしか適応されないが、「CAR-T療法」が実際に患者への治療に用いられることで、新たな課題や問題点が浮き彫りになり、さらに改善されていくはずだ。
当然、頻度の高い難治性のがんに対して、CAR-T療法を試みることはすでに始まっている。今はまだ十分な成果が出ていないが、必ず実際の臨床においても応用可能なものが出てくるに違いない。
問題は、治療費用がとても高額(アメリカでの表示価格は37万3000ドル:およそ4200万円)なこと。だが一方で、治療から1カ月後の効果を調べて<効いていれば料金を支払う>という、成功報酬的な設定も検討されている。<医療費の新しいあり方>を考える機会にもなっており、今後の議論に注視したい。