「低周波音」による健康被害の訴えは日本でも
「音」は空気の振動だが、1秒間当たりの振動回数を「周波数」といい、単位Hz(ヘルツ)で表す。周波数が小さいほど「低い音」、大きいほど「高い音」になる。一般に、人間の耳に聞こえる「可聴領域」は周波数20Hz~20000Hz(20KHz)とされており、CDではその範囲外の周波数は記録されていない。
だが、耳に聞こえなくとも音(振動)は体に伝わっており、なんらかの影響を及ぼす可能性はあると考えられる。真偽は不明ながら、冷戦時代の旧ソ連では「耳に聞こえない超低周波音」を利用した音響兵器が研究されていたとの説もある。
これと関連して思い出すのが、日本でも近年、議論されている「低周波音被害」の問題だ――。
一般に周波数100Hz以下の音は「低周波」、さらに耳に聞こえない20Hz未満の音は「超低周波」と呼ばれる。低周波音被害とは、さまざまな機器や乗り物など人工物の動作音に含まれる低周波を継続的に浴びることにより、頭痛やめまい、不眠、身体不調などの健康被害が起こるとするものだ。
風力発電施設の近隣住民、あるいは節電をうたった家庭用コジェネレーション機器(熱電供給機器)の利用者から多くの訴えが相次いでいる。
環境省が継続的に調査を行っているが、これまでのところ「耳に聞こえない超低周波音」や「一定以上の音量に達しない低周波音」と健康被害の因果関係は認められていない、つまり、明らかに耳に聞こえる大きな騒音でない限り害はないというのが国の見解だ。
消費者庁が「エコキュート」の低周波音被害で不眠の可能性を指摘
しかしながら、実際に低周波音による健康被害を受けたとして国やメーカーに対して訴訟を起こす事例が増えている――。
2014年には消費者庁の消費者安全調査委員会が、家庭用コジェネレーション機器「エコキュート」について「不眠などの健康症状の発生に関与している可能性がある」とする報告書を発表した。
日本弁護士連合会も、医学的な調査・研究と十分な規制基準を国に求める意見書を提出するなど、状況が変わりつつある。
人工的ノイズを長期にわたり聞かされたら、不快に感じるであろうことは想像に難くない。
福島県立医科大学・衛生学教室の行った実験では、131種類の環境音を聞かせたところ、人が「不快」と感じる音は「人工的な音」や「その種類を認知できない音」だった。一方、「快適」に感じる音は「自然の音」や「自分の好きな音楽」であり、快適に感じる音は音量があるほうがより快く感じられるという結果が出ている。
自然音の超高周波は脳を活性化
自然界には、「20Hzを下回る超低周波」が継続的に発生することはまずない。一方、虫の鳴き声などの自然音には「20KHzを超える超高周波」が含まれている。インドネシアのガムラン音楽、琵琶、尺八などの民族楽器にも超高周波が多いとされる。
こうした自然音や民族楽器に含まれる超高周波は耳に聞こえないが、人間の脳活動によい影響を与えるとする「ハイパー・ソニック・エフェクト」という学説がある。
国立精神・神経医療研究センターの本田学氏は、PET(ポジトロン断層撮像法)を用いて、超高周波を含む音源を聴いたとときの脳機能を測定した。
その結果、脳幹や視床下部、視床といった脳の深い部分「基幹脳」のネットワークが活性化され、免疫系や脳血流、認知機能などに活性化が確認された。このことから、超高周波はストレス軽減など医学的応用が可能ではないかと研究が進められている。
こうした事例からも「耳に聞こえない音」が「脳」になんらかの影響を及ぼす可能性はあるのかもしれない。米国キューバ大使館への「音響攻撃」は果たして事実か? その真相解明は続報を待つとして、音のもたらす影響に関する医学的研究は今後さらに注目を集めそうだ。
(文=編集部)