禁煙よりも最安値のタバコに手が伸びる
もちろん今回の知見が、そのまま「タバコの価格上昇と乳児死亡率の高低下の因果関係」を証明したわけではないのは言うまでもない。たとえば、米ハンティントン病院小児科のMichael Grosso氏は「減少」そして「増加」の両傾向とも「当然の結果」との見方を明言し、次のようにコメントしている。
「まず増加のほうに関していえば、母親の喫煙と乳児の死亡率との関連は何十年も以前から知られており、母親の喫煙は乳児の呼吸器疾患と強く関連している。そればかりか、乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)リスクを倍増させることも既に示唆されている」
「また、減少傾向については、値上げでタバコを買えなくなった母親が増えた結果、乳児の健康に寄与したと考えられる。当然といえば当然の研究結果だ」
一方、研究を実施した側のFilippidis氏らは、最安価と平均値の差が拡大するに伴なって(翌年の)乳児死亡率が増加する現象に関しては、「タバコが値上げされると、禁煙という選択肢をとらず、より価格が手ごろな格安品に切り替える女性が多いのではなかろうか」と、やはりスライド説を推している。
タバコ税収は約2.5兆円、喫煙の経済的デメリットは約4.3兆円
そんな考察を前提に、「今後のタバコ規制においては、こうした格安タバコの排除を視野に入れたタバコ税や価格規制の導入が考慮されるべきだろう」と研究陣は強調している。
こうした「胎内(胎児)への悪影響」により踏み込んだ欧州勢の考察姿勢に比べ、わが国ではようやく「私生活空間」における子どもたちへの配慮(努力義務)が都レベルで条例化されたばかりだ。
日本国内のタバコ税収は一説に約2兆5000億円、喫煙による経済的デメリットは約4兆3000億円という概算もある。前者のメリットを凌駕する研究報告のほうが数的にも圧倒的に多い。この差こそ、もっと語られてもいいのかもしれない。
(文=編集部)