「痛み難民」に射し始めた光明
そうした状態ですので、わが国においては未だ慢性痛に必要な診療の仕組みは確立されておらず、「痛み難民」の多くは放置されたままです。
そんな厳しい状況ではありますが、最近になって前向きな動きも次々と出てきています。
厚労省などが行っている慢性の痛み対策関連事業は、他の予算が削られる中、年々増額の方向で動いています。
更に昨年6月に閣議決定された「一億総活躍プラン」に慢性痛対策の推進が記され、骨太の方針2017でも「慢性痛対策に取り組む」と書かれる見通しです。(5) (6)
マスコミの報道も、一昨年NHKスペシャルで「腰痛治療革命」が放送されて以来、慢性痛について取り上げることが多くなってきました。(7)
世界情勢に目を向ければ、WHOによる「国際疾病分類」の2017年改正(ICD-11)では、「人口の2割が訴える慢性痛を適切に分類記述することは世界的急務」とし、これまで各疾患の症状などとしか書かれていなかった「慢性痛」を独立した疾患として分類する方向とも言われています。(4)
これら動きは、本格的な慢性痛対策が始まる前触れなのかもしれません。
慢性痛問題への真摯な対応は、痛み難民を救うだけでなく、健康寿命を延ばし、無駄な検査や手術や投薬を減らすなど医療費削減にも役立ち、労働力の確保や介護の負担を軽減することにもつながることでしょう。また、慢性痛は自殺や不登校や引きこもりの原因の一つにもなっているとみられ、それらの解決にも貢献するはずです。(8)
慢性痛の概念を理解するのは難しいことかもしれません。筆者自身が、家内の痛みは慢性痛であると納得するまで何年もの時間がかかっています。また、慢性痛に正しく対応する仕組み作りは、医療体制や制度を大きく変える必要のある難しい作業だとも考えています。
他国に比べ20年以上遅れているとも言われるわが国の慢性痛に対する医療。広く国民にこの問題が理解され、関係者が協力し日本の実情に合ったより良い慢性痛診療システムが、一刻も早く構築されることを願っています。
(文=若園和朗)
若園和朗
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン 代表理事
【参考または引用 URL】
(1) http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ro8f-att/2r9852000000roas.pdf
(2) http://www006.upp.so-net.ne.jp/wakasama/itami/asinbun.htm
(3) https://www.youtube.com/watch?v=_EMeHQ45x5g
(4) https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiBookDetail.aspx?BC=926002
(5) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/plan3.pdf#page=15
(6) http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0602/shiryo_02.pdf#page=14
(7) http://www.nhk.or.jp/kenko/nspyotsu/
(8) https://www.youtube.com/watch?v=QPEB851CbvI&t=181s
2017年8月8日「MRIC by 医療ガバナンス」より転載