世界中のビンテージワインの真贋を突き止める「ボム・パルス炭素14」による識別法
さて、放射性炭素年代測定法、セシウム137による年代測定法を経て、脚光を浴びるようになったのが「ボム・パルス炭素14」による識別法だ。
かつてサンフランシスコで開かれた米国化学会会議で、科学者グラハム・ジョーンズ氏は「放射性炭素年代法は、全地球的に放射性炭素濃度が過去から現在まで一定であったことを前提としている。1940年以前、地球上の生態圏において炭素14(C14)は、宇宙線と大気圏上層部の窒素によって作られていた」と発表した。
ところが、1940年後半から1963年までの間に行われた大気圏核実験によって放射性物質が放出されたため、大気中の「ボム・パルス炭素14」の量が急増。だが、1963年に大気圏核実験が停止された結果、「ボム・パルス炭素14」の量は、化石燃料の燃焼によるCO2(二酸化酸素)の化学反応によって徐々に薄められてきた。
つまり、収穫前のぶどうは、CO2を摂取する時に炭素14も取り入れて生育するため、そのぶどうを原料にしたワインは、微量で無害な放射性炭素の「ボム・パルス炭素14」を含んでいることになる。
21世紀初頭、欧米の科学者のグループは、高感度の加速器質量分析装置を利用し、1958年から1997年までのヴィンテージのある20の赤ワインのアルコール中の炭素14を計測し、その計測値を既知の大気サンプルの放射能レベルと比較したところ、ワインの製造時期を高精度で鑑定できた。その計測法が「ボム・パルス炭素14」による識別法だ。
「ボム・パルス炭素14」による識別法は、有史以前の化石や工芸品の年代を調べる放射性炭素年代測定法のように、あらゆるワインの製造年代を調べるのに大いに役立つ。たとえば、話題を集めた1982年製シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite-Rothschild)でも、その真贋が立ち所に判明するだろう。
この鑑別法が普及すれば、世界のワイン市場からおよそ30億ドル(3300億円)もの偽装被害が撲滅できるという。年代物ヴィンテージワインの偽造ボトルを買わされて、悔しがるのも昔話になるかもしれない。
(文=佐藤博)
*参考:放射性炭素年代測定にBeta Analytic
http://www.radiocarbon.com/jp/carbon-dating-bomb-carbon.htm
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。