世界最古のワインはフランス産ではなくイタリア産?(depositphotos.com)
米サウスフロリダ大学の考古学者David Tanasi氏が率いる国際研究チームは、シチリア島アグリジェント近郊クロニオ山の洞窟で発見した複数の素焼きの陶器(テラコッタ)に、およそ6000年前の発酵ぶどうの痕跡を確認し、世界最古のワインは、フランス産ではなく、イタリア産だった可能性があると国際化学誌『微量化学ジャーナル(Microchemical Journal)』に発表した。
国際研究チームは、醗酵ワインの中に存在する「ボム・パルス炭素14」(ボンブカーボン)による品種識別法によって、醗酵ぶどうの残留物を調べた結果、紀元前4000年の品種と判明。これまでイタリア最古とされてきたブドウ栽培の痕跡から、さらに約3000年も遡る大発見となった。
研究に参加したイタリアのカターニア大学の化学者Enrico Greco氏は「この洞窟は、神々への供え物がされた神聖な場所だったかもしれない。洞窟の中で発見されたので、土中に深く埋もれず、中身も長年の間に凝固してはいたものの、保存状態は良好だった」と説明している。
DNA鑑定から放射性炭素年代測定法を経てセシウム137による年代測定法へ
醗酵ワインの中に存在する「ボム・パルス炭素14」による品種識別法の真相を知るためには、10数年前のフランスとイタリアの国境付近にタイムスリップしなければならない。
2005年、ボルドー大学のPhillipe Hubertらの研究チームは、ワインに含まれるセシウム137という放射能を測定するワインの年代測定法を確立したと発表した(「World Fine News」2005年6月18日 )。
フランスでは、有名なAOC(原産地認証)を受けたビンテージワインにまったく別の安価なワインを混ぜ、偽物を正真正銘のAOCワインと偽って販売する偽装・詐欺事件が頻発し、現在も収束する兆しはない。
今回の研究チームは、このようなトラブルに対処するために、フランス詐欺取締り当局が資金を拠出して立ち上がった。だが、研究所は高度なセキュリティを確保するために、フランスとイタリアの国境近くの地下に設けられ、測定が続けられてきた。
従来のワインの年代測定法は「DNA鑑定」の手法によるぶどう品種識別法(SNPs/一塩基多型を分析するPCR法など)が開発されたが、解析精度が低かった。たとえば、ブルゴーニュの赤の場合なら、ピノノワール以外のぶどうが混ぜられれば有効だが、粗悪なピノノワールが混ざると品種が同じであるために判定不能に陥る欠点があった。
また、「炭素14」の減衰を測定する「放射性炭素年代測定法」によっておよその年代測定は可能だったが、ボトルを開けて測定する必要があった。だが「セシウム137」による測定法なら、ボトルを開けずにヴィンテージワインを測定できる利点がある。放射性炭素年代測定法は、自然の生物圏内では放射性同位体である炭素14 (14C) の存在比率が1兆個あたり1個と一定である事実を根拠に判定する年代測定法だ。