痛みもなく早く傷が治る「湿潤療法」
そもそも「痛み」とは、私たちの体の防衛反応である。「それ以上やめて!」と体が危険を知らせているわけだから、強い痛みを引き起こす行為は逆効果だろう。
「これまで消毒薬を使って傷が治っている」という意見もあるが、傷が治っているのは人間の自然治癒力のおかげで、消毒薬は傷の治りを遅くしている。これは、皮膚の表面の組織などを形成する「上皮細胞」を消毒薬が破壊するからだ。
では、どのような処置が最善か?
これまでの「消毒・乾燥・ガーゼ」による治療とは真逆の「湿潤療法(モイストヒーリング、ラップ療法)」を実際に試してほしい。消毒するときの痛みもなく、早く傷が治ることを実感できるはずだ。
正しい「湿潤療法」のやり方
湿潤療法の大まかなやり方は次のとおり。ぜひとも『傷はぜったい消毒するな』(夏井睦、光文社)などの書籍を参照してほしい。
①傷口を水道水でよく洗浄する(血液や泥、砂などを丁寧に取り除く。消毒は行わない)。
②傷口をドレッシング材で覆う(ドラッグストアなどで入手できるドレッシング材として「キズパワーパッド」「ケアリーブ」などがある)。
③ドレッシング材から浸出液が漏れ出したらドレッシング材を外し、水道水で浸出液を洗い流してから、新しいドレッシング材で傷口を覆う。
④1日1~2回、傷口を水道水で洗い、ドレッシング材を交換する。
⑤傷口にうっすらと膜が張ったように見えたら(上皮化)、湿潤療法をやめる。
なお、動物にかまれたり、釘などが突き刺さったり、傷が赤く腫れ上がったりしているときは、深くまで細菌が入り込んでいる危険があるので、必ず受診しよう。
ケガに消毒薬を使うかどうかは、本人の自由だ。ただ、子どもが学校などでケガをしたときに、「消毒もしてくれないのか」と苦情を入れる前に、消毒薬を使わない処置が主流になりつつある現状を理解してほしい。
(文=森真希)
森真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。