特集「なぜ特定の<男性>は痴漢に走るのか?」第3回

痴漢は「依存症」である~常習者の歪んだ認知「仕事を頑張ったから痴漢は許される」!?

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試しに1カ月ほど自慰行為をやめてみませんか?

 斉藤氏によれば、大森榎本クリニックでは痴漢常習者を性依存症として捉え、行動変容が必要な「患者」として受け入れているという。だが、こういった<認知の歪み>を修正することは決して簡単ではない。

 「よく裁判ではまず、加害男性に『反省』を求めますが、治療の観点からは『反省』よりも先に『行動を変容させる』ことを第一の目的にしています」(斉藤氏)
 
 つまり、内面はどうあれ、まずは痴漢という行為をしないためのリスクマネジメントやコーピング(対処行動)を再教育して、それを日々丁寧に反復練習するのだ。

 「これがうまくいくようになると自己肯定感があがり、治療への意欲がわいてきます。その地道な積み重ねの上で連動して、徐々に内面の変容が起こることを、次の治療目標として設定しています。これが加害者臨床における<変化のステージモデル>といいます」

 治療プログラムでは、自分自身の生育歴を振り返ったり、ミーティングをすることで同じ問題を持った仲間同士の連帯意識が生まれ行動の変容を目指す。その際に、ポルノの視聴やマスターベーションについて、一定の制限を提案する場合もある。

 「マスターベーションをやめると、逆にストレスがたまって性犯罪の引き金になると思っている人は多いのですが、実はマスターベーションが欲求を亢進させている場合が多い」

 「そこで『試しに1カ月ほど自慰行為をやめてみませんか』と提案してみると、意外とやめられることに気づく人が多くて、それがより安全なリスク管理や行動変容のきっかけになる場合もあります」

 また、常習的な痴漢行為を性依存症として捉える考え方は、「依存症なら病気だから仕方がない」「病気なんだから自分には責任がない」という発想や世界観につながってしまう危険性がある。

 そこで、「病気としての性依存症」と「犯罪としての行為責任」をきちんと並列させて、病理化することが免罪符とならないようにそのバランスに気をつけている。
 
 「私はよく裁判で、加害男性側の専門家証人として出廷することもありますが、『性依存症イコール責任能力がない』ということには決してなりません。出廷はあくまで被告人の病理の解説と、治療反応性や治療可能性を説明するため。痴漢犯罪が法律的にきちんと罰せられなければならないことはいうまでもありません」
 
 これまで当クリニックには、痴漢を含む性犯罪加害者が患者として1000人以上訪れたが、その約半数は1回の受診だけであとは来なくなったという。しかし、3年間治療に通い続けた患者に限れば、<再犯はゼロ>になっているそうだ。

 「やはり治療プログラムの効果はあるので、被害者をこれ以上増やさないためにも、治療できる受け皿や専門家をさらに増やしていく必要があります」

 「痴漢大国・日本」という不名誉な称号が、過去のものとなる日はいつ訪れるのだろうか──。
(取材・文=里中高志)

痴漢は「依存症」である~常習者は「仕事を頑張ったから痴漢は許される」!?の画像3

斉藤章佳(さいとう・あきよし) 
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」(東京都)で、精神保健福祉士・社会福祉士として、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性依存・虐待・DV・クレプトマニアなどのアディクション問題に携わる。大学や専門学校で早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含め、その活動は幅広くマスコミでも度々取り上げられている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版)、その他、論文も多数。

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