テレビゲームは安全? ストレスが軽減する? 問題解決能力が向上する?
しかし、米ステッソン大学のChris Ferguson氏は「テレビゲームによる脳への影響に関する研究には問題点がある。脳にはさまざまな領域があるが、その一部にたまたま認められた差を研究者が大袈裟に取り上げ、その原因はテレビゲームにあるとしている場合もある」と指摘する。
さらに、Ferguson氏は「脳の研究を全体的に見ると、テレビゲームは安全であることが示されている。暴力的なゲームであっても脳に短期的あるいは長期的な悪影響を及ぼす報告はなく、脳の変化が実際の行動に関連することを示した研究もほとんどない」と強調する。
なお、West氏は「成人がシューティングゲームをプレイする時間は、週2~3時間以内に止めるべきだと」と助言する。
一方、Ferguson氏は「ゲームによってストレスが軽減され、問題解決能力が向上することす研究もある。オフラインでの人付き合い、運動、仕事、学習、睡眠の時間を確保し、ゲーム以外の時間とのバランスを維持できれば、テレビゲームによる脳への有害な影響はない」と結論づけている。
しかし、人間は、なぜテレビゲームに没入(immersion)するのだろうか? その究極的なテーマを学術的に探求した研究がある(ニューズウィーク日本版/論壇誌「アステイオン」(2016年7月17日)84号より)。
立命館大学大学院先端総合学術研究科の吉田寛教授は、論文「ゲーム研究の現在 『没入』をめぐる動向」の中で、ゲーム研究の論争について解説している。
吉田教授によると、「没入」とはゲームの世界にのめり込み、臨場感に酔うことだ。だが、「没入」よってプレイヤーとゲーム世界との距離がなくなるのか、プレイヤーが現実と虚構の区別がつかなくなるのかについては議論がある。
つまり、プレイヤーはゲームが遊びであることを忘れ、その経験が現実であると信じ込んでいる「没入の誤謬」なのか、ゲームが虚構であることを知りながら、それにのめり込む「二重意識(リメディエーション)」なのか、それとも「現実の規則」と「虚構の想像」を同時に合体させる「半-現実(Half-Real)」なのかという論争だ。
いずれにしても、このような「没入」をめぐる研究は、ゲームプレイの経験を解明するだけでなく、読書や映画鑑賞などのインタラクティブではないメディア経験にも改めて光を当てている点に意義がある。さらには、ゲーム研究の成果が、必ずしもゲームや遊びを研究対象としない認知科学、社会科学、教育学などの異分野への応用も始まっている。
今日、ネットやSNSなどのデジタルメディアの恩恵を受けない日はない。「ポケモンGO」がうつ病を改善するなどの評価が高まったように、テレビゲームが、娯楽や産業のフレームに収まらない価値と意義を持つ明らかな状況がある。
デジタル世界のインタラクティブ性を存分に体験させてくれるテレビゲーム。犯罪や暴力を煽る、子どもへの悪影響がある、脳へのダメージがある、発症リスクが強まるなど、テレビゲームのデメリットを問うのもいい。
だが、判断力を鍛える、脳を活性化させる、ボケの防止になる、計画し実行する遂行能力が身につくなど、人間力を高めるツールとしてのアドバンテージにも注目したい。
(文=編集部)