シリーズ「AIと医療イノベーション」第19回

AI 自動運転システムの世界覇者は? 難題は「経済性優先か安全性尊重か」

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トヨタはAI自動運転システムの世界覇者に君臨できるか?

 東京オリンピックの2020年を照準に合わせて稼動しているのが、トヨタと米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)だ。

 2017年5月14日、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、カリフォルニア州サンノゼで開催した「GPUテクノロジーカンファレンス」で、トヨタが2020年に市場導入を見込んでいるAI自動運転システムのハードウェアとソフトウェアを提供し、技術提携すると発表した。

 発表によると、AI自動運転システムを支えるコア技術は、手の平サイズの「DRIVE PXプラットフォーム」だ。「DRIVE PXプラットフォーム」は、カメラ、Lidar(ライダー)、レーダー、その他のセンサーで生成される大量のデータを毎秒30兆回の超高速でAIが演算・処理するため、自動運転の様々な状況にフレキシブルかつスピーディに対処できる。Lidar(ライダー)は、レーザー光線によって車両の周囲360度の環境(位置関係や距離)を把握し、マップ上の位置を特定したり、危険を予測する先進のリモートセンシング技術。音波を利用するレーダーよりも波長の短いレーザー光線を使用するので、100m離れた物体との距離を数cm単位で検知できる精度の高さが特徴だ。

 フアンCEOは「AIとハイパフォーマンス コンピューティングのブレークスルーを組み合わせ、自動運転車の頭脳を構築しているので、自律走行の未来がすぐそこまで来ている。我々なら自動運転を2年で実現できる」と豪語している。

 トヨタとNVIDIAは、すでに高度なソフトウェアの開発に着手。AI統合の最前線に立つトヨタとNVIDIAは、世界覇者に君臨できるだろうか? 交通死亡事故が根絶される日が訪れるだろうか?

伏兵、アウディやTeslaの暗躍も?

 しかし、アップル、Google、トヨタなどのビッグなパイオニアが勇躍すればするほど、伏兵が俄かに頭角を現すのが世の常だ。その最右翼は、独フォルクスワーゲン(VW)の高級自動車部門アウディ。

 アウディは、7月11日にAIが主役になるレベル3の自動運転車「A8」を今秋、ドイツで発売すると早々と発表し、世界をアッと驚かせた。発表によると「A8」の自動運転最高時速は60km。ライバルのダイムラー傘下のメルセデスが手掛ける「Sクラス」やBMWの「7シリーズ」を上回る高速という。

 アウディは、昨年の世界販売台数でダイムラーやBMWの後塵を拝した屈辱を「A8」のデビューでリベンジしようと企図しているのかもしれない。調査会社IHSによると、「A8」の販売台数は、欧州・中国・米国の中核市場だけでも、2025年に3万5571台以上に上ると推定している。

 また、伏兵と言えば、IGMのOnStarシステムと、IBMのWatsonスーパーコンピュータとのパートナーシップが構築したライドシェアリングサービスも、有望視されている。

 そのほか、運転者の疲労や注意散漫などの人的ミスを緩和するという安全性重視のコンセプトで気を吐いているのが、高級電気自動車メーカーのTeslaだ。TeslaのAI自動運転プログラム「Autopilot」は、超高速のAIコンピュータを中核に、8台のカメラ、12台の超音波センサー、フォワードフェーシングレーダーを統合しているため、周辺道路の交通状況に合わせて、障害物や駐車場の自動検出、運転時の車線変更などを迅速・確実にサポートできる。Teslaによると、「Autopilot」を使用すれば、安全性の確率は、人間のドライバーの2倍以上も高まるとしている。

 ただし、好事魔多しと言う通り、AI自動運転システムには、いくつかの難関も待ち受ける。

 たとえば、システムの要になるLidar(ライダー)のデザインとコストだ。UBERが開発したプロトタイプを見れば明らかなように、車体の屋根の上に煙突のように突きだしたLidar(ライダー)が搭載されているが、AIカーの先進性とかけ離れた時代錯誤のデザインという誹(そしり)は免れない。また、1基あたり数1000ドルから1万ドル(数10万円~100万円)ものLidar(ライダー)の高価格は、自動車部品としては極めて高額なため、かなりコストダウンしなければ、普及におぼつかない。

経済性優先か、安全性尊重か?

 難題はまだある。経済性優先か、安全性尊重かという根源的な問題の解決だ。

 システムを統合化した安全性・信頼性の高いAIプログラムを搭載するためには、車のオートブレーキを起動し、衝撃力を軽減できるクラウドベースのアシスタント(情報支援)機能を完成しなければ始まらない。

 だが、システム設計から販売までの開発期間に要する限界費用の負担が企業に重くのしかかる。限界費用は、生産量を追加的に1単位増加した時の生産費用(原材料費や賃金など)の増加分だが、システム開発と販売に時間がかかればかかるほど、高コスト体質に陥り、経営が圧迫される。

 今後は、AI企業と自動車メーカの包括的な連携や提携がますます進むだろうが、ドライバーの安全性と快適性だけはクリアしたAI自動運転システムを実現してほしいものだ。 

 なお、本サイトの「シリーズ『AIと医療イノベーション』第18回:居眠り運転による交通事故は47%!『人工知能』が眠気を検知して『眠くならない車内環境に』」も併読してほしい。
(文=佐藤博)


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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