高濃度の溶解型酸素が全身に供給され、様々な疾患や病態を改善!
エデンちゃんが受けた高気圧酸素治療(HBOT)は、どのような治療法だろう?
HBOTは、圧力の高い部屋(高気圧治療装置)で100%の高濃度の酸素を吸入し、全身に酸素を供給する治療だ。日本高気圧環境・潜水医学会や厚生労働省の基準によると、2絶対気圧(大気圧の2倍、水深10mの圧力)で1時間以上の100%の高濃度の酸素を呼吸させると定めている。
血液中(動脈血中)の赤血球内にあるヘモグロビンの95%以上が酸素と結びついている(結合型酸素)。
高気圧環境下で高濃度の酸素を吸入すると、圧力に応じて血清(血液の液体成分)に酸素が溶け込み、この高濃度の溶解型酸素が全身に供給されるので、生理的、化学的、物理的作用によって様々な治療効果が生まれ、病態の改善につながる。
HBOTは、どのような治療効果があるのだろう?
第1に、HBOTは、溶解型酸素の濃度の上昇によって、糖尿病、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)、一酸化炭素中毒などの末梢血行障害や抹消組織の低酸素状態を改善する。
第2に、HBOTは、溶解型酸素の濃度の上昇によって、創傷治癒(きずの治り)を促進する。
糖尿病、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)などの末梢循環不全による皮膚潰瘍を始め、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がんの放射線治療後に生じる正常粘膜のただれ、直腸・膀胱からの出血、放射線性顎骨壊死などの晩期放射線障害を緩和する。そのほか、捻挫・打撲による腫れや痛みを軽減し、靭帯損傷や肉離れの回復も促進する。
第3に、HBOTは、白血球による滅菌作用を増強するため、ガス壊疽、壊死性筋膜炎、骨髄炎などの細菌感染症に対しても有効だ。
第4に、HBOTは、悪性腫瘍の放射線治療の有効性を高める効果もある。
第5に、HBOTは、加圧によって腸閉塞などによる腸内ガスの容積を縮小するため、循環が悪化した血管を回復させ、腸の働きを改善する。
第6に、HBOTは、スキューバダイビングでの深いダイビング、長時間の繰り返しダイビング、急浮上や安全停止の省略などによって、組織内や血管内に窒素ガスの気泡が生じる減圧症の体内窒素ガスの排泄を促す効果がある。
つまり、HBOTは、高気圧環境下での高濃度の酸素吸入による酸素分圧の増加に伴って、溶解型酸素を増加させるので、酸素の運搬が低下する末梢循環不全・損傷組織の創傷不全・感染症・減圧症などへの有効性が高い。
ただし、重大なリスクがある。火災だ。
高気圧環境下では、僅かな発火元が重大な火災を招く恐れがあるため、各医療機関は、マッチ、ライター、タバコ、カイロ(使い捨て含む)、時計、ラジオ、携帯電話、スマホ、消毒用アルコール、ベンジン、油脂類などの持ち込みを厳禁している。
さらに、綿または木綿100%の下着の着用を義務付け、治療前に患者のボディチェックを行うなど、入念な安全対策を講じている。
さて、この猛暑だが、水難事故の犠牲者が出ないことをひたすら祈るばかりだ。
なお、HBOTの詳細を知りたい人は、下記のサイトを参照してほしい。
日本高気圧環境・潜水医学会
http://www.jshm.net/
日本臨床高気圧酸素・潜水医学会
http://square.umin.ac.jp/jachod/
松原徳洲会病院
http://www.matubara.tokushukai.or.jp/department/technology/hipressure.html
*参考文献/『高気圧酸素治療の基礎と臨床』榊原欣作 医学書院など
(文=編集部)