他人に無関心だから目を合わせないのではない
自然科学の研究論文を扱う「Scientific Reports」6月9日オンライン版には、アメリカのマサチューセッツ総合病院のグループが行った、自閉症の特徴的な行動に関する研究結果が発表されている。
自閉症の特徴的な行動には、先に紹介した「手をひらひらさせる」のほかに、「他人と目を合わさない」というものがある。
「自閉症の人は他人に無関心のように見えますが、そうではありません。目を合わせないのは、脳のある特定の部位が過剰に活性化することで起こる、不快で過剰な覚醒状態を軽減させるためなのです」と研究グループのメンバーは話す。
その部位は「皮質下系(the subcortical system)」と呼ばれていて、他人と目を合わせることで活性化するのである。皮質下系とは、赤ちゃんが人間の顔に自然に興味を示し、そして私たち人間が他人の感情に気づけるようにする脳の部位だ。
研究グループは、自閉症の人たちとそうではない人たちに人間の顔の画像を見せた。そして自由に見てもらったときと、顔の中の目の部分だけを見てもらったときで、脳の活動がどのように変化するのかを調べた。
その結果、顔全体の画像を自由に見てもらったときは、どちらも似たような脳の活動だった。しかし、目の部分だけを見てもらったとき、自閉症の人は皮質下系が過剰に活性化していた。
この傾向は、怖がっている表情の画像を見てもらったときに顕著だったが、楽しそうな表情や怒った表情、普通の表情の画像でも同じ結果が得られた。
「行動療法の中には、自閉症の子どもたちに他人の目を見るように強制するというものがあります。この方法は、子どもたちに大きな不安を与えているかもしれません」と研究グループのメンバーは語っている。
「他人と目を合わせることにゆっくりと慣れていくことで、自閉症の子どもたちは過剰反応を乗り越えて、長期的には目を合わせることもできるようになるでしょう。こうして、他人の目を避けることが社会生活を送る上で必要な脳機能の発達に与える連鎖的な影響も避けられるでしょう」
(取材・文=森真希)