長時間労働の免罪符「36(サブロク)協定」~日本に過労死がなくなる日は来るのか?

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本当に豊かな生活とは……

 斎藤さんの長女は、20歳で出産したシングルマザーだった。

 「いくらなんでも仕事がハードすぎない」と心配する長女に斎藤さんは、「この年だとほかに雇ってくれるところもそうないし我慢する。少しでも家計の足しにしたいし」と毎日仕事に出かけて行った。

 朝日新聞デジタルの公開した動画で長女は、「休みは全くなく働いてました。自分が休んだら回らんっていうプレッシャーのせいで、お母さんとの時間も全然作れなかった」とたどたどしく語る。

 齋藤さんをそこまで長時間の仕事に追い込んだものは何なのだろうか?

 生活のために長時間のシフトを入れざるを得ない、という実態があったのかもしれない。加えて、人件費を切り詰めるため、ギリギリの人数でまわす職場もひとつの要因だろう。

 最近、若者たちを中心に「最低賃金を時給1500円に」と求めるデモが各地で行なわれるようになった。

 今年のメーデーでは、長時間労働や過労死の防止を掲げたデモも目についた。「時給1500円デモ」には、ネット上で「それだけの働きをしているのか」という批判や、それでは商売が成り立たない――という懸念の声もあがったようだ。

 だが、生活のためにギリギリまで追いつめられる層がいる――この社会がひずみを抱えており、転換期を迎えているのは明らかだ。

 休日のない生活が当たり前……では人間らしい心のゆとりや、家族との時間など持ちようがない。この国が目指すべきは、数字だけの経済成長よりも、本当に豊かな生活の実現ではないだろうか。
(文=里中高志)


里中高志(さとなか・たかし)

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。

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