劣悪な労働環境で働かされたために精神疾患を発症し……(depositphotos.com)
劣悪な労働環境で働かされたために精神疾患を発症して退職する……。これだけでもたまらないのに、その退社によって損害を被ったとして会社から訴えられたとしたら?
想像したくもない事態だが、実際にそのような事例があるのだから、日本の労働環境は本当に恐ろしい。
その男性の代理人を務めた弁護士によると、男性は2014年4月にIT企業「プロシード」に入社したが、劣悪な環境による長時間労働で、双極性障害を発症し、同年12月に退職に至った。
男性が罹患した双極性障害は、かつては「躁うつ病」の名で呼ばれていた。双極性障害は大別して「双極性Ⅰ型」と「双極性Ⅱ型」がある。最近増えている双極性Ⅱ型は、軽躁状態とうつ状態を交互に繰り返すのが特徴だ。
軽躁状態のときは気分が昂揚し、睡眠時間が減少して多弁になる。それに対し、うつ状態のときは疲労感や集中力の減退。ときには自殺衝動も表れる。症状が長期にわたることも多く、継続的な治療が必要な疾患だ。
ウソの病状で会社を欺き一方的に退社?
会社を退職したばかりの男性は、依然として治療が必要な状態にあったと想像される。ところが、会社側は「ウソの病状で会社を欺いて一方的に退社した」として、1200万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたのだ。
これによる男性の精神的ダメージは想像に余りある。実際に男性は、この会社側の提訴によって症状が悪化したという。
しかも、この話には続きがある――。訴えられた男性は、会社の提訴によって精神的苦痛を被ったとして、会社側に損害賠償を求めて逆提訴。その判決が3月30日、横浜地裁で下された。結果は、会社側の敗訴! 横浜地裁は会社側の請求をすべて棄却し、男性に対して110万円を支払うように命じた。
男性の代理人を務めた嶋崎量弁護士は、「退職後の労働者への不当訴訟を理由に損害賠償が認容されたケースは数件しか先例もなく、画期的な判決だ。ブラック企業を返り討ちにした点に意義がある」とコメントしている(「弁護士ドットコム」2017/03/30)。