嗅覚は<脳の変化>を反映した指標
入念な解析の結果、先行研究が示唆したとおり、嗅覚検査の成績が悪い人ほど死亡リスクが「有意に高い」事実も分かった。しかし、被験者の学歴や各自の健康状態、加齢に伴う認知機能などに関連する変数を調整・解析しても、前述のような関連性は読み取れなかったそうだ。
主筆者のOlofsson氏は、「我々ヒトの嗅覚は脳の変化をよく反映しており、<坑道のカナリア>よろしく、五感のなかでもとりわけ鋭敏な指標になるのではないかと思う」と見ている。
そして、「先達陣の研究では、この嗅覚の低下が認知症と関連することが示されてきた。一方、今回の私たちの研究では、早期死亡との関連においては認知症が特に関与していないことが判明した。つまり、従来より考えられてきたものとは別の、生物学的な機序が背景にあるのではないかと考えている」と述べている。
匂い感じなくなるのは生命活動の終わり?
その上で「嗅覚が鈍くなる原因」については、感染症やケガ、あるいは薬の服用など多様な理由が考えられるため、嗅覚の鈍化を感じたら「まずは医者に相談すべき」だと述べている。
この点については、副鼻腔や鼻の問題に詳しい米シカゴ大学外科准教授のJayant Pinto氏の助言も拝聴しておこう。
「嗅覚検査を行うと、実際の症状よりも嗅覚を悪く感じている人が多い。食べ物の風味には嗅覚が関与するため、食事が美味しいと感じられるうちはとくに問題はないだろう」
陸上の生物は空気中、水中の生物は水中の化学物質を感知する機能が「嗅覚」だ。同じく化学物質の受容による「味覚」との違いは、「嗅覚」の場合、(接触しなくても)自らの周辺に散らばっているものを受け取(れ)る点にある。
要は遠くにあるものでも匂いをキャッチし、その「正体」を知ることもできる点で優れているのだ。
嗅覚は多くの生物にとって、食べ物の探索や危険の感知、生殖活動の誘発など、生命活動に不可欠な役割を果たす。野生動物では、いかに鋭敏に匂いを感知できるかが生存に大きく関わる。ヒトも匂いを敏感に感じ取れなくなるのは、生命活動の終わりを示しているかもしれない。
(文=編集部)